2011年9月16日金曜日

パイレーツ・ロック

バカに「ロックンロール」は最高の褒め言葉。

パイレーツ・ロック('09)
監督:リチャード・カーティス
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、ビル・ナイ



ビル・ナイがキャプテンを務める船といえば? 
……フライング・ダッチマン号? まぁ、それも正解。CGでタコ、もといデイヴィ・ジョーンズになってるから、誰だかわかんないけど。(『パイレーツ・オブ・カリビアン』参照)
それじゃ、ビル・ナイがキャプテンで、フライング・ダッチマン号よりもジャック・スパロウよりもロックな船って知ってます?

答えは、イギリス領海外に停泊中の海賊ラジオ局、「ラジオ・ロック」。
物語の主人公は、高校を退学になった少年カール。彼は、母親の旧友であり名付け親でありラジオ・ロック経営者であるクエンティンに預けられ、ラジオ・ロックの船内で暮らすことになる。
ラジオ・ロックで共に生活するのは、個性的なDJと個性的なクルーたち。自由を愛するアメリカ人のザ・カウント、長らくイギリスを離れていた伝説のDJギャヴィン、お人よしのサイモン、皮肉屋のデイヴ……。ロックと、バカなゲームややり取りに心血を注ぐ非日常的日常に、カールは戸惑いながらも溶けこんでいく。
しかし、その頃陸上では、政府が海賊ラジオ局が風紀を乱しているとして目の敵にし、取り締まりの法案を着々と進めていた。

ラジオ・ロックは架空の放送局だが、1966年のイギリスに海賊ラジオ局が存在していたのは事実。当時、イギリスのラジオは国営放送BBCのみ、しかも1日にたった45分しかポップ、ロックを流すことができなかった。ロックがぎっしり詰まったiPodをペースメーカーとする人間にとっては、禁断症状や発作が起きそうな環境である。
そこで誕生したのが、法律が適用されないイギリス領海外に船を停泊させ、そこから電波を飛ばして24時間ポップ、ロックを放送し続ける海賊ラジオ局。当時、イギリスの人口の実に半数以上が、海賊放送を聴いていたそうだ。

ロックの需要のためとはいえ、領海外に船を出し、政府を敵に回すこと自体、バカみたいに映るかもしれない。
船上の生活も、娯楽のためにバカをやるだけでなく、信念(それも客観的に見れば、時にどうでもいいものかもしれない)のためにバカをやるとなると、もはや大バカもいいところである。
ラジオ・ロックのメンバーをそこまで駆り立てたのは、ロックへの渇望である。イギリス人口の半分に至るリスナーだけでなく、彼ら自身がロックと、ロックに生きることを求めているのだ。放送に情熱を注ぎ、権力者を挑発し、悪ふざけや女遊びに興じるDJたちの姿は、古典的なロックスターそのものである。
クライマックスの「ロックンロール!!」の雄叫びは、すべての愛すべきロックバカへの、最大級の賛辞なのだ。

60年代が舞台なので、サントラもザ・キンクス、ローリング・ストーンズ、クリーム、ザ・フーなど、当時のロックの名曲が名を連ねる。いずれも普遍の名曲なので、「懐かしの曲」「古い曲」といった印象がないのは当然のこと、「最高に幸せな瞬間にも辛い瞬間にも寄り添ってくれる音楽」という描き方が、ベタながら音楽好きには時代を超えて通じるものがある。

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