2011年9月9日金曜日

カム・トゥ・ダディ・EP/エイフェックス・ツイン

神経を侵食する音と顔。

APHEX TWIN
Come To Daddy EP ('97年)



クリント・マンセルが手がけた、映画『π』のメイン・テーマを聴くと、「神経症」という表現が浮かぶ。ひんやりとしたエレクトロニカのサウンドと性急なビートは、正確無比の数学能力を持ちながら、パラノイアで、次第に追いつめられていく主人公の頭の中そのものだ。
そしてこの感覚は、エイフェックス・ツインのアルバムを聞いたときの感覚に似ている……と思ったら、サウンドトラックにはしっかりエイフェックスの曲が入っていたのだった。

サントラ収録の「Bucephalus Bouncing Ball」がM4に入っていて、なおかつエイフェックス屈指の神経症的サウンドの作品が、このEPである。
何といっても、表題曲のドリルンベースの耳につくこと。それに乗ってくり返されるフレーズ「お前の魂が欲しい、お前の魂を喰ってやる、パパのところへおいで」の不気味なこと。この曲は映画『8mm』でも、スナッフ・フィルムの殺人鬼の部屋でかかっているレコードの曲として流れている。
表題曲のリミックスも2曲収録されているが、エイフェックスの「リミックス」とは「完全なる再構築」なので、原曲の面影はまったくといっていいほど残っていない。
その他の楽曲も、ビートの刻み方や響きが神経に響く。特にM4「Bucephalus…」は、トレイの上に落とされたガラス玉の音をズタズタに刻んで執拗にくり返す、嫌がらせスレスレのアートになっている。
M2「Film」とM8「Iz-Us」はかろうじて穏やかだが、この場に収録されていると、根底に何やら不穏なものがあるような気さえしてしまうのだった。

それにしても、エイフェックスのCDジャケットには、エイフェックス・ツイン=リチャード・D・ジェイムズのポートレートが多い。それも不気味な笑顔。量産されてずらりと並ぶリチャードの顔は、まるで記号である。
この顔はPVにもよく表れるが、増殖して迫って来るので、ジャケに輪をかけて不気味だ。「Come to Daddy」では、ジャケ写のようにリチャードの顔を貼りつけた子どもたちが廃墟で暴れまわり、大人を追い回す。さらに、テレビ画面にはリチャードの顔をさらにデフォルメした怪物のような顔が映る。
短いながらも、そこらの映画より心理的に「来る」ホラー作品となっている。

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