2012年3月4日日曜日

悪魔のいけにえ

絶対に笑ってはいけないテキサス84分。

悪魔のいけにえ('74)
監督:トビー・フーパー
出演:マリリン・バーンズ、ガンナー・ハンセン



この映画、ときどき『13金』と混同して覚えられているのはなぜだろう。一応、念を押しておきたい。
チェーンソー持ってる殺人鬼はジェイソンじゃありません! レザーフェイスです!!
そして、レザーフェイスはジェイソンみたいな単独犯じゃありません! 家族ぐるみでスゴイのです!! 
まぁ、ジェイソンだって原点にはママの存在があったけどね。

テキサスにやってきた旅行中の若者5人が、たまたま不気味なヒッチハイカーに遭遇し、たまたまガソリンが足りなくなり、たまたま仲間の旧家の近くにとんでもない殺人&食人一家が住んでいたため、次々と殺される。今や良作からポンコツまで大量生産される「ド田舎で若者大量殺戮」系スプラッターホラーのほぼ原形である。
スプラッターといっても、実はそんなに血糊やおどろおどろしいメイクは使われていない。重要なのはむしろ、映画から漂ってくる「不快な空気」だ。例えば、真夏の暑さと車の中の湿度。カーラジオから流れる嫌な事件のニュース。蓄殺の話。ヒッチハイカーの一挙一動。適度にイラッとくる若者たちのやりとりと行動。一見だだっ広くて開放感のあるテキサスの風景から、日本のホラー/サスペンスとはまた違った土着性と湿気を醸し出している。
そんな得体の知れない不快感に延々つきまとわれていると、非常に分かりやすい恐怖の権化であるレザーフェイスが登場したとき、変に安心してしまったり。もっとも、レザーフェイスVS女の子の地獄の追っかけっこシーンは、チェーンソーのエンジン音と悲鳴の音響効果で不快感が高まるけど。

ところでこの映画、思いこみで語られているところが結構多い。
まず、チェーンソーによる殺害シーンがほとんどない。殺害にはむしろハンマーが王道(?)らしい。チェーンソーはほとんどレザーフェイスが持って追っかけてくるだけだ。あと、実は使い勝手悪いだろうに、食肉(=死体)解体に使ってるシーンとか。
そのチェーンソー殺人シーンも含め、ド派手な血しぶきや切断などの直接的なゴア描写はない。せいぜい冒頭の腐乱死体の映像くらい。予算や技術の都合上難しかったのだろうが、そこは演出の巧みさでカバーされている。実際にエグいものを生み出しているのは、観る側の想像力だ。

一番予想外なのは、史上もっとも怖い映画とされている本作が、結構笑えるということ。それも、普通に考えたら恐怖真っ只中の、レザーフェイス一家のシーンに笑いが詰まっている。
食肉(……)の確保・解体プロフェッショナルのレザーフェイスだが、それ以外はあまり頭が回らないらしく、ややトロくてオタオタ気味。グランパ思いで、兄たちには頭が上がらない一家の末っ子。そして食卓ではなぜか皮膚マスクに厚化粧。そんな姿をうっかり「可愛い……」なんて思ってしまったら最後、この映画にずっぱまること必至です。
家族も負けちゃいない。実は一家の次男坊だったヒッチハイカーは、一番のブチギレ兼やんちゃで、年の離れた長男を怒らせっぱなし。長男は一番普通の人っぽいが、常識的な言動と非道な行動のギャップがどうしようもない。弟たちに比べて殺しは苦手だけど、料理(……)は得意ってあたりも何とも。そして一家の長たるグランパは、超高齢すぎてほぼミイラ。でも家族みんなから尊敬され慕われている。一家の声援のもとヨレヨレの手でハンマーを持とうとする様子には、うっかりすると微笑ましさすら感じてしまう。
が、生き残ったものの運悪くとっ捕まり、こんな一家に延々付き合わされた女の子サリーの恐怖を思うと、本当は笑ってられないことに気づく。ましてや可愛いだの微笑ましいだのとは到底言ってられない。一家の住まいのシュールすぎる家具・内装だって、実際に起きた猟奇事件(エド・ゲイン事件)とほぼ同じなのである。怖いはずのときになぜか笑っていられることは、面白いのだけれど、一周回ってやっぱり怖い感じもする。

なお、賛否はあるだろうが、この映画でもっとも怖いシーンは、サリーが逃げ切れたところだ。普通ヒロインが殺人鬼から逃れると安心するはずだが、あの瞬間のサリーの様子は安心からはほど遠く、むしろ映画前半のような嫌な雰囲気すら漂う。
逆に、獲物に逃げられ、朝日をバックにチェーンソーをぶん回して悔しがるレザーフェイスの姿は、そんな不快感をすっ飛ばし、芸術的にさえ映る。そう思えてしまうあたりが、やっぱり怖いところなのかもしれない。

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