2012年9月13日木曜日

キャンディマン

一緒に居てあげて。

キャンディマン('93)
監督:バーナード・ローズ
出演:ヴァージニア・マドセン、トニー・トッド



「ヒロインvs殺人鬼」は、ホラー映画鉄板の構造。たいていは、ヒロインが殺人鬼から逃げきったり、返り討ちにすることが望ましい。
そんな中、数少ない例外といえるのが、この映画である。

鏡の前で5回名前を唱えると現れる、右手にフックを付けた男「キャンディマン」。都市伝説に関する論文を作成する大学院生ヘレンは、キャンディマンの噂の発生元の1つとなった団地を調べていた。その最中、ヘレンが面白半分に鏡の前でキャンディマンの名を唱えてしまったがために、キャンディマンが彼女の前に現れ、犠牲者も出てしまう。事件は傍から見ればヘレンの犯行にしか見えず、彼女は味方を失い孤立していく。

一見して怖い/ヤバい感丸出しのジェイソンやフレディやマイケルら有名どころのホラーアイコンズとちがって、右手の生々しい切断痕とフックを除けば、古風なロングコートをまとった長身黒人青年にすぎないキャンディマン。演じるトニー・トッドの顔立ちとディープボイスも相まって、やけに気品に溢れている。現れたからには犠牲者が出るものの、セックスしたりドラッグやったりする奴をメッタ殺しするわけでもなければ、お気に入りの子を楽しそうにねちねち追い詰めているわけでもない(ヘレンについては結果的に追い詰めちゃったけど)。
キャンディマンが一般的ホラーアイコンと一線を画するのは、都市伝説として語り継がれなけば、自分は無になってしまうと知っているところだ。この設定は、子どもたちの恐怖がなければ活動できないという『フレディvsジェイソン』のフレディと似ているが、キャンディマンにはフレディのような快楽性やブラックユーモアがなく、むしろときどき哀しささえうかがえる。あくまで自分の存在のために、義務的に殺戮を行っているとでもいうような。
そんなキャンディマンが唯一執着を見せたヒロイン、ヘレン。もちろん、自身の存在が「過去に起きた恐ろしい事件と、悪質な不良の蛮行に基づくただの噂」と論じられてしまってはたまったものではないから出てきたのだろうが、それ以上に、あまりにも悲惨な彼の過去によるところが大きい。そのへんを知るにつれ、無責任ながらヘレンに「そこは逃げないであげて!!」と言いたくなってしまうこともしばしば。
そうなると、気になるのがあのラスト。あれはやっぱりバッドエンドなのだろうか。それとも誰かにとってのハッピーエンドなのだろうか……。

あからさまなゴア描写がなく、ラストに向けてのカタルシスもさほど強くはないので、スプラッター/殺人鬼ものホラーとしてはやや物足りない。その代わり、誰からも理解されずに孤立していく怖さや、都市伝説を生み出す結果となる群衆の行動の怖さ、そして全編に漂う物悲しさは、キャンディマンの傷口のように生々しく、じわじわと響いてくる作品である。


↓物悲しさの最たる貢献者であるテーマ曲(音声のみ)

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