2012年10月14日日曜日

アイアン・スカイ

月面ナチスの大部分はオタクの夢で出来ています。

アイアン・スカイ('12)
監督:ティモ・ヴオレンソラ
出演:ユリア・ディーツェ、ゲッツ・オットー



今年のニューヨーク、マンハッタン界隈は大変だ。
ワームホールから宇宙人が襲来してくるし、そのせいで核ミサイルまで飛ばされるし。
コウモリでおなじみのあの街もマンハッタンあたりがモデルだとしたら、頑強マスク一派による核爆弾&都市孤立化事件まで起きたことになる。
で、こいつらも来ちゃったし。

終戦時に実は月へと逃亡してたナチスが、満を持して地球に攻めてきました。……それ以上でもそれ以下でもないお話。
一応、「アメリカ保守派のやってることだって実はナチスとあまり変わらないんでない?」「ある意味もっとヒドくない?」「利権が絡めば国連だって泥仕合になるよねー」などの皮肉や、アメリカ宇宙戦艦「ジョージ・W・ブッシュ」号などのブラックユーモアがちりばめてあるが、スパイス程度。メインはとにもかくにも「月からナチスがやってきたんだーーー!!!」の一点。そしてその一点をゴリ押ししたのが大変良い。だからこそスパイスもよりよく活きる。

そのゴリ押しの最たるものこそ「鋼鉄」。月面ナチスの鉤十字要塞しかり、円盤「ワルキューレ」しかり、最終兵器「神々の黄昏」号しかり、黒ずんだ鉄や歯車がむき出しで、ゴゴゴゴゴと重々しい音を発して動く。小型・薄型とはほど遠く、洗練からはもっと遠く、スケールと重量でいっぱいいっぱい。
一見、笑いをとるためにやりすぎ感で盛り上げたようだし、実際その意味もあるが、それ以上に、ムダに重厚な装備やマシンの類についガッツポーズしたくなるオタクの愛情で盛り上がっているのである。実際、この映画はWebで予告を観たファンからカンパを募って作られたのだから、月面ナチスと鋼鉄の機械はいわば映画ボンクラの結晶だ。
大統領広報官改め宇宙軍指揮官には「短小コンプレックスの表れね」と切り捨てられていたが、どちらかというと中学男子的スピリット(実際の年齢・性別不問)の表れである。

なお、機械だけでなく、音楽も鋼鉄。ナチス・全体主義的イメージで批判を浴びた(もちろん確信犯)スロヴェニアのバンド、ライバッハが担当している。鋼鉄といってもヘヴィ・メタルではなく、ノイズや機械音に彩られた重々しいインダストリアル。先述の鋼鉄要塞&飛行物体にあまりにもぴったり。
愛国歌を替え歌した「月面帝国国歌」があったり、ナチス軍ではなくアメリカを筆頭とした国連宇宙軍の攻撃時に「ワルキューレ」(『地獄の黙示録』でおなじみのアレ)のアレンジ版が流れたり、終盤の最も不毛かつ皮肉なシーンでアメリカ合衆国国家の替え歌&アレンジ版が流れるなど、表現のために批判の最前線へ突っ込んでいくライバッハらしい皮肉も。ビートルズやストーンズや『ジーザス・クライスト・スーパースター』の独自すぎるカヴァー曲をやったセンスが活きている。

そうそう、ナチス軍服のヒロインというと、女王様風格だったり、露出が高くていい感じに下品なところが魅力的なタイプによくお目にかかる(下のフェイク予告に出てくるシビル・ダニングやシェリ・ムーン・ゾンビが例)。
そこへいくと、ユリア・ディーツェ演じる本作ヒロインのレナーテは、どちらかというと可愛らしいタイプで、性格もピュア。おまけに声も可愛い。彼女だったら、ナチ軍服だろうとナチ式敬礼しようと演説ぶとうと、好感度が上がります。むしろ演説やっていただきたいものです。

ナチスついでに、タランティーノ&ロドリゲスの趣味企画・グラインドハウスのフェイク予告編でロブ・ゾンビが作った『ナチ親衛隊の狼女』ってのもありまして(リンク先日本語字幕なし)。
フェイク予告のはずが本当に本編が作られた『マチェーテ』『ホーボー・ウィズ・ショットガン』よろしく、こちらも制作が進められると思ったが、誠に残念ながら中止に。観たかったなぁ、マッド・サイエンティストなビル・モーズリィと、素敵に方向性を見失ったニコラス・ケイジのフー・マンチュー。ちなみに、『アイアン・スカイ』で月面総統だったウド・キアーもいらっしゃいます。

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