2013年4月26日金曜日

プッシャー トリロジー

売るも地獄、買うも地獄、クズとクスリの物語。

プッシャー('97)
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:キム・ボドゥニア、マッツ・ミケルセン

プッシャー2('04)
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:マッツ・ミケルセン、リーフ・シルベスター・ペーターゼン

プッシャー3('05)
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
出演:ズラッコ・ブリッチ、アイヤス・アガク



青少年への薬物教育にあたって、観賞後ドン凹み映画と名高い『レクイエム・フォー・ドリーム』と、本三部作の観賞を勧めるのはどうでしょうか。ドラッグを売るっていうのは、こういう世界に足つっこむってことですよという意味で。
どのみちセックス&バイオレンスの描写でアウトでしょうが。


プッシャー


コペンハーゲンの麻薬密売人(=プッシャー)フランクは、相棒のトニーとともに麻薬王ミロの下で金を稼ぐ日々。あるとき、大口のヘロイン取引の話を持ちかけられたフランクは、ミロに借金をする形で大量のヘロインを仕入れた。
ところが、取引の現場に警察の手入れが入り、フランクは逃走中についヘロインを池にぶちまけてしまう。ミロへの借金だけが残ったフランクは金策に走るが、すべてがうまくいかないまま、返済のリミットが刻々と迫ってくる。

前述の『レクイエム…』は、麻薬を売りも買いもしているが基本的に使う側の転落劇で、こちらは一応ときどき使うものの基本的には売る側の転落劇。
麻薬売買における借金とは、すなわちハードコア闇金。代償はデカいのである。

大量ヘロインの損失分とこれまでの借金を補うべく、主人公は金を貸している知り合いのもとに取り立てに行ったり、アムステルダムからヘロインを仕入れてさばこうとする。が、当の金を貸した相手がどうしようもないジャンキーだったり、上物のヘロインを仕入れたはずが思いっきり偽物をつかまされたり、最悪なまでの空回りぶり。
にもかかわらず、大して愛してもいない女のもとでダラダラ過ごしたり、これまたダラダラチマチマと期限を延ばしてもらおうとしたりと、非常に見ていてイラッとさせられる。極限まで追い詰められているはずの主人公に微塵も同情できない。むしろ、主人公周辺で同情できる人物は、せいぜいヴィク(一応フランクの彼女。でもフランクはただの売春婦としか見ていない)ぐらいしかいない。三部作通していえることだが、基本的に登場人物はクズばかりなのだ。

フランクはツイてないわけでも、巻き込まれ型主人公というわけでもない。どこでどう間違ってこんな目に……と嘆いたところで、ほとんどは自分勝手で気まますぎるプッシャーの暮らしが招いたことだ。そもそも、プッシャーという仕事をやってること自体が大間違いともいえる。
果たして、最後の最後まであらゆるものを失い続けたフランクは、自身の命だけはキープできたのだろうか。それとも、それすらキープできない大バカ野郎だったのだろうか。

ちなみに、本作にはイギリス版リメイクがある。フランク役リチャード・コイルの表情のせいか、オービタルの曲のせいか、そちらのほうが焦燥感があって主人公にギリギリ同情の余地が感じられる。逆に、相棒トニーが童貞臭漂うガキなのはちといただけない。トニーのダメ人間ぶりは、いい歳した大人だからこそ際立つのだ。

 

プッシャー2


刑期を終えた元プッシャーのトニー。今度こそカタギになると決意したものの、出所早々転落の道が。
かつての女友達シャーロットが生んだ子どもが自分の子とされ、養育費を請求される。いつの間にか母親が他界していたことを知る。プッシャーの友人カートの麻薬取引の場に同伴した際、トニーのミスでカートがヘロインをトイレに流す失態を犯し、責任を追及される。しかも、カートが取引のために多額の金を借りていた相手とは、ギャングでもあるトニーの父。借金返済のかわりに、父はトニーに元妻の暗殺を命じる。

前作でフランクの相棒をつとめるも、裏切りがバレてバットでボコボコにされたトニーが主人公に。
前作の時点から、こいつもどうしようもないクズ人間ということは知れているのだが、それを踏まえてもトニーが辿る血煙街道はあまりにも切ない。出所後初めて念願の売春宿に行くも、長い刑務所生活が祟ったのかインポ状態で売春婦に笑われる様から、いきなり切ない。親からも友人からも「クズ」「最低」と罵られ、邪険に扱われっぱなし。
マシになろうとしているのにますますもってダメになっていく彼の悲劇は、本三部作のコピー「なんでなんだっ!! もう耐えられねぇっ!」がもっともふさわしいエピソードではないかと。

だが、トニーをバカにする連中も、少なからず殺しや暴力に手を染めていたり、クスリ漬けの日々だったりするクズには違いない。特に、ドラッグとタバコの煙が立ち上る中に赤ちゃんをほったらかして、ドラッグやってばかりのシャーロットへの苛立ちはひとしお。同じ裏社会のクズでも、トニーはちょっとブチ切れ気質なだけの底の浅いクズなのだ。

そんなトニーが最後にとった、父とシャーロットへの反逆の行動。暴力と後味の悪さばかりが残り、先に希望は見えない。しかし、もはやそうするしかなかったのだという切なさだけは、何よりもひしひしと伝わってくるのである。

余談だが、トニーを演じるマッツ・ミケルセンは、前作・今作とスキンヘッド。常日頃からマッツの顔面骨格の素晴らしさをTwitterで語っているのだが、この2作で頭蓋骨自体がパーフェクトな形なのだと判明した。

貼らずにはいられなかったキング・オブ・頭蓋骨。




プッシャー3


麻薬王ミロは、溺愛する娘の誕生日パーティーの支度と、借金返済のためのヘロイン入手に追われていた。しかし、何かの手違いなのか、届いたのは1万個のエクスタシー。エクスタシーには詳しくないものの、早急に現金が必要なミロは、部下のムハマドにエクスタシーを売ってくるよう命じる。
しかし、ムハマドはそのまま帰らず、連絡もとれない。パーティーでは娘に文句ばかり言われ、取引相手の若いギャングからはナメきった扱い。ストレスで追い詰められていくミロは、絶とうとしていたドラッグに再び手を出し、ついには怒りを爆発させる。

何気に三部作唯一の皆勤賞であるミロが主人公に。
ボスとして若いプッシャーを追い詰めてきたミロを追い詰めたのは、新たに台頭してきた東欧の若手ギャングだった。どの世界にもある世代交代のときではあるが、麻薬取引の世界のそれは一際シビア。一度借りをつくってしまった人間は、年長だろうとボス格だろうと堕ちるしかない。

しかし、それ以上にシビアなのは、ミロが愛する娘もまた彼を精神的に追い詰める存在であるということだ。パーティーの準備に花が欲しい風船が欲しいと土壇場で注文をつけ、パパが急きょ取り寄せてくれたフライ料理を粗末にするワガママぶり。しかも、その性格を補えるほどには可愛くないし(失礼)。
でも、彼女がこんなふうに育ってしまったのは、完全にミロの自業自得である。

若い連中にコケにされるミロの屈辱は終盤まで続くが、ミロがとうとう爆発してからの展開は、思いがけず三部作中最大のゴアシーンへと向かう。そこでミロ以上の活躍をみせるのが、1作目で彼の用心棒だったラドヴァン(念願のケバブレストランを経営中)。
昔とった杵柄……というかナイフとノコギリでもって手際よく、しかしエグく死体を始末する様相は、グロテスクながら一抹の清々した感が漂う。やっぱり、こればっかりは経験がものをいう技術なんですね。

それにしても、ミロはセルビア系だし、若いギャングたちにもラトヴィアやポーランド系が多いし、コペンハーゲンは東欧系ギャングが多いのか?

2013年4月15日月曜日

映画索引

あ行

アイアン・スカイ
アイアン・フィスト
悪の法則
悪魔のいけにえ
悪魔のいけにえ2
アダム・チャップリン/テーター・シティ 爆・殺・都・市
アベンジャーズ
アメリカン・バーガー
イット・フォローズ
イノセント・ガーデン
インビジブル
インブレッド
宇宙人ポール
ウルヴァリン:SAMURAI
ABC・オブ・デス
ABC・オブ・デス2
エクスペンダブルズ2
エド・ウッド
エルム街の悪夢
エルム街の悪夢3 惨劇の館
エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃

か行

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
カンパニー・メン
キャビン
キャンディマン
96時間/96時間 リベンジ
桐島、部活やめるってよ
キングスマン
毛皮のヴィーナス
劇場版 ビーバス&バットヘッド DO AMERICA
ゴーストライター
GODZIlLLA (2014)
ゴッド・アーミー 悪の天使

さ行

最強のふたり
ザ・コンヴェント/ゾンビキング/処刑山 デッド・スノウ
SUCK(サック)
ザ・フライ
ジャッジ・ドレッド
死霊のしたたり
スキンウォーカー・プロジェクト
スクール・オブ・ロック
スペル
セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ
戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE 01~劇場版・序章
ゾンゲリア
ゾンビ・ストリッパーズ

た行

ダーク・シャドウ
タイタンの戦い
007/ゴールデンアイ
007 スカイフォール
チェンジリング
デビルズ・メタル
トータル・リコール(1990)
飛びだす 悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲
トレマーズ

 

な行

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記
ナイトメア・ビフォア・クリスマス
2000人の狂人(マニアック2000)
2001人の狂宴
ノーカントリー
ノック・ノック

は行

π〈パイ〉
ハイ・フィデリティ
パイレーツ・ロック
パシフィック・リム
ハロウィン(1978)
ハロウィン(2008)
ハロウィンⅡ(2010)
羊たちの沈黙
ピラニア3D
武器人間/ヒトラー最終兵器
プッシャー トリロジー
ブレイカウェイ
フレディvsジェイソン
ヘイトフル・エイト
ベルフラワー
ヘル・レイザー
ヘンゼル&グレーテル
ホラー・シネマ・パラダイス

ま行

マーダー・ライド・ショー
マイティ・ソー
マイティ・ソー ダーク・ワールド
マチェーテ
マッド・ナース
マッドマックス 怒りのデス・ロード
マニアック(2013)
ミラクル・ニール!
ムカデ人間
ムカデ人間2
ムカデ人間3
モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル

 

や行


ら行

レッド・ドラゴン
ロッキー・ホラー・ショー
ロックンロール・ハイスクール

 

わ行

英数字

2013年4月7日日曜日

スペル

お年寄りには親切に(だって後が怖いから)。

スペル('09)
監督:サム・ライミ
出演:アリソン・ローマン、ジャスティン・ロング



小学校のとき流行った怪談話に、「ムラサキババア」とか「三時ババア」とかバアさんの幽霊話がよくあった。バアさんの幽霊ならおとなしめに、しかしコワく攻めてくるのかと思いきや、これが意外と噛みついてきたり猛ダッシュしたり根性(?)で異次元に引きずり込もうとしてきたりと、アグレッシブなオバケだったりするのが厄介。
オバケものに関しては、年とって丸くなるどころか、執念深さが年齢に比例するんじゃないか疑惑が。

銀行の融資係のクリスティンは、出世がかかったプレッシャーから、一人の老婆のローン延長願いを断ってしまう。その途端、老婆は態度を一変させてクリスティンにつかみかかり、果ては終業後の駐車場で待ち伏せ襲撃し、謎の呪文を唱えて去っていった。
以来、彼女の周辺には謎の影が見えたり、見えない誰かに殴られたりと、不気味な現象が起き始める。3日後には地獄へ引きずり込まれるという呪いを解く術はあるのか……。

大学教授の彼氏に釣り合う彼女になりたい、そのために昇進したい、ライバルに負けたくない、という誰でも抱きそうなささやかな欲求から不親切な行動に出たばかりにしっぺ返しを喰う……という教訓話的な面もなくはない。
しかし、3日間のアルティメット嫌がらせの果てに地獄行きとまでヘヴィなしっぺ返し、神様だってやらないだろう。……いや、やるかも(ギリシア神話や北欧神話ネタの映画を鑑みながら)。

一応、老婆の呪いの背後にはラミアという悪魔がついているのだが、正直悪魔よりもバアさんのほうが怖い。生きてるときからしても、駐車場待ち伏せ攻撃の際、義眼にホチキスアタックや口にドライバーアタックなどの反撃を受けても、文字通り噛みついてくる。死体になっても、謎の緑色の液体を吐きかけてくる。
霊体みたいなのになったらさらに悪ノリして、横に寝てる彼氏と入れ替わるわ、蛆虫を吐き散らすわ、上腕までずっぽーーっと口に突っ込んでくるわ……生死を問わず心臓に悪くタチも悪く気色も悪い。都市伝説に出てくるバアさん幽霊の頂点に立たせたいレベルだ。

そんなバアさんが所持者のせいか、バアさんのハンカチもやたらアグレッシブ。クリスティンの車のフロントガラスにベタンと貼りついたり、これまた口の中にずっぽーーっと入りたがったりもする。ちなみにそのハンカチ、バアさんのド汚い入れ歯が上にポイと置かれてたシロモノ。
教訓がどうこう、悪魔がどうこうというより、とにもかくにも「バアさんの逆恨み超怖ぇぇ」印象が先をひた走る一本である。

先ほどから、口から何か吐き出す、口に何かがずっぽり入るなど、薄ら気持ち悪いネタが続く本作。
サム・ライミは昔やってたようなB級ホラーを作るにあたって、映画会社サイドからいろいろ言われたんじゃなかろうか。「レーティングの問題あるから、血しぶきドバーーとか内臓ドローーとか手足バッサーーとかダメね」とか。虫もどきやゲロもどきだったら、「だって血しぶきも内臓も出してないし手足も飛んでないっすよ」って言い訳ができそうだ。流血もあることはあるけど、支店長に向かってヒロインがダイナミック鼻血を噴射するシーンぐらいだし。

それにしても、アリソン・ローマンほどの可愛らしい人が、よく鼻血ブー/鼻からハエ侵入/口からハエリターン/ゲロまみれ/泥まみれと半端ないヨゴレをやってくれたものだなぁ。

2013年4月5日金曜日

2000人の狂人(マニアック2000)

ヒーーーハーーー!! (ブラマヨ小杉に非ず)

2000人の狂人(マニアック2000)('64)
監督:ハーシェル・ゴードン・ルイス
出演:コニー・メイソン、トーマス・ウッド



一度DVD発売された際、タイトルが「マニアック2000」になっているのは、きっとオトナの事情です。そのわりに再発盤ではもとのタイトルに戻ってたりするので、オトナの事情は大して意味がなかったようです。


本作のオープニングから流れる、ルイス監督作のカントリーソング「The South Is Gonna Rise Again」(音声のみ)。牧歌的なメロディながら、歌ってることはちょい怖い。『インブレッド』の「Ee by gumソング」はこれが元ネタに違いない。
「ヒーーーハーーー!!」といえば一般的にブラックマヨネーズの小杉ですが、この映画を観て以来、私にとってはルイス監督でありプレザントヴァレーの皆様です。

地図に載っていないアメリカ南部の村、プレザントヴァレーに迷い込んだ3組の北部出身カップル。彼らは村人から歓待を受け、これから行われる百年祭の特別ゲストとして滞在を勧められる。
しかし実は、プレザントヴァレーは南北戦争で村人全員が北軍に虐殺されたいわくつきの村。村人たちは百年前の北部人への恨みを果たさんとしていたのだ。かくして、祝賀ムードと陽気なカントリーソングの中、カップルたちは次々と血祭りにあげられていく。

「南北戦争の虐殺の復讐」なんておどろおどろしい背景のわりには、舞台は抜けるような青空で、カントリーソングが流れるカラリとした雰囲気で、村人の皆さんみんな笑顔で陽気でハイテンション。そんな状況下で旅行者たちを惨殺するところが不気味という見方もあるが。
といっても、スプラッターシーンは死に様のムゴさに反して描写はあっさり。斧で腕部分をばっさりいかれただけであっけなく死んでいたり、馬による四肢裂きと思った次の瞬間には犠牲者がマネキンに……もといバラバラ死体になっていたりする。「えっ? それもう死んでるの? それでいいの??」という微妙な空気を残すところは、『インブレッド』に受け継がれているようだ。純粋にゴアゴアな描写を求めるとスカかもしれない。
なお、ルイス監督は「初めてスクリーンで内臓を出しちゃった人」だが、本作には内臓の出るシーンはない。

『2000人の狂人』と言いつつ、出てくる村人は30人足らずといったところもツッコミどころか。ただそこは客寄せのためにちょっと……いや相当多めに盛ってみた監督さんのガッツということで。
あと「残りの1970人(仮)はみんなの心の中にいるんだよ!」という泥沼ポジティブ意見も考えてみました。

以下、ネタバレを含みます。



実はプレザントヴァレーは実はとっくに消滅した村であり、村人の皆さんは南北戦争時に殺された人々の亡霊である。
晴天の下に出てきて、あんなに血色よくて陽性気質な亡霊も珍しい。消えるときも消えるときで「じゃまた100年後に一仕事すんべか」とアッサリ。
そういう意味じゃ、スプラッターの始祖という点より、こちらの亡霊描写のほうがレア度が高いかもしれない。

ちなみに、私個人はこの映画をシアターN渋谷のハーシェル・ゴードン・ルイス映画祭にて観賞。犠牲者が出るたびに場内が温かい苦笑に満ち溢れるという、貴重にして素敵な時間を過ごしました。
『血の祝祭日』観賞の際には、終了後に映画秘宝Devilpressの皆様のトークショーも拝聴し、手造り&素人感溢れるルイス監督の映画製作エピソードを楽しんだものです。
そういう意味でも、ルイス監督とその作品、シアターN、Devilpressの皆様と、全員に感謝したいところです。