2013年6月11日火曜日

マニアック(2013)

偏執狂的イライジャ・ウッドの穴。

マニアック('13)
監督:フランク・カルフン
出演:イライジャ・ウッド、ノラ・アルネゼデール



『マルコヴィッチの穴』って映画ありましたね。ビルにある謎の穴に入ると、3分間だけジョン・マルコヴィッチになれるってやつ。ボンクラ脳をお持ちの方なら、誰になってみたいか妄想力をフル稼働させたことだろう。……させたよね? させたと言ってくれませんか!?
それはともかく、たとえ誰かになれる穴に入れたとしても、このときのイライジャ・ウッドになってみたいって人はまずいなさそう。しかも、3分間じゃなくて、89分間だからね。でも、ハマる人は妙にハマってしまうんだよ、この視点。

女性を殺して頭皮を剥いではマネキンに被せる連続殺人鬼、フランク。その犯行を追いながら、なぜ内気なマネキン修復師の彼が凶行をくり返すのかが徐々に暴かれていく。と同時に、初めて自分を理解してくれるかもしれないと思った女性カメラマン・アンナと出会ったことで、フランクの人生にもたらされた幸福と狂いも明らかになっていく。
本作は1980年の同名映画(特殊メイク担当トム・サヴィーニ先生)のリメイク。オリジナルは未見だが、もとのフランク役ジョー・スピネルのごんぶとで濃ゆい存在感とは雲泥の差ながら、対人恐怖症の気があって繊細な犯人像にはイライジャ・ウッドは適任だと思う。小動物のような見た目からターゲットが安心して近づいてしまうのも、逆にあの大きな瞳でじっとり凝視されてターゲットが恐怖をおぼえるのもうなずける。

オリジナルとのもっとも大きな違いは、すべて犯人の目線で描かれているということ。フランクがどのようにして獲物を追い、どのようにして殺すのか、犯行のすべてが分かる。映像や音楽がクールに描かれているのに相対して生々しい。
しかし同時に、主人公でありながら、フランクの姿はほとんど画面に映らないことになる。ときおり鏡や窓に映った姿を見るぐらい。あるいは彼の幻想の中で、客観的な姿(それでも主観なんだけど)を見るか。したがって、観客は常にフランクの表情を見ているわけではない。
それでも、というよりはそれだからこそ、フランクの緊張感や揺れ動きがダイレクトに伝わる。視線の動き(人の目を見てしっかり話すことが苦手な人ほど身につまされる)や、獲物を定めて追うときの息遣いを通して。あるいは、子どもにとってはおぞましい母の記憶の幻想を通して。アンナとのちょっとしたデートがいかにフランクにとって至高のひとときかも分かるし、彼女にボーイフレンドがいると知ったときや、美術編集者に屈辱的なことを言われたときには、痛みがビシビシ伝わってくるのだ。

こういう映画だと、当然真っ先にスラッシャーホラーに耐性/興味のある客層が来るはずなのだが、どういうわけか配給元は一部ゴアシーンにボカシを入れた。そして、当然上記のような客層から多かれ少なかれひんしゅくをかった。
R指定を15に押さえるためでもあり、本作のラブストーリー的側面を見てほしいための決定だそうだが、同年公開のリメイク版『死霊のはらわた』が豪快にぶっちぎったりぶった切ったりしてR18を堂々と掲げていたことを思うと、残念な気もする。残虐シーンは全部見せろ! とばかり言いたいわけではないけれど、「観るべきところはそこだけじゃないよ、ほらほらラブストーリーも観てよ」と変にガイドするのは、ちょっとお節介の部類になってしまうんじゃないかなぁ。

そんなモヤモヤを吹き飛ばしてくれたのが、終盤のフランクの暴走と、切る、刺す、殴る、ぶった切る、撥ねるなど、暴走劇を真っ赤に彩る血祭り。フランク自身の心の痛みも、肉体的痛みも最骨頂に達し、当然観ている側もフランクと一体となって体感することになる。
そしてなによりも痛いのは、血祭りの果てにそれでも望むものを得ることのできないフランクの切なさ。スプラッターを見にきたつもりだったのに、不覚にも泣けてくるほどだった。

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