2013年6月30日日曜日

イノセント・ガーデン

アリスはもう帰らない。

イノセント・ガーデン('13)
監督:パク・チャヌク
出演:ミア・ワシコウスカ、マシュー・グード



白ウサギは謎めいた金髪の好紳士。ラビットホールは鍵。
ただし、アリスが落ちてきた不思議の国には、マッドハッターも三月ウサギもトランプ兵もなく、白ウサギ=紳士とアリスだけ。そしてアリスは一人不思議の国の女王様になる。
そんなパク・チャヌク版『不思議の国のアリス』にも見えました。

他の人より鋭い感覚を持つがゆえに、孤立している少女インディア・ストーカー。18歳の誕生日を迎え、プレゼントに謎の鍵が届けられたとき、一番の理解者であった父親が事故で亡くなる。
父の葬儀の日、それまで存在すら知らなかった叔父のチャーリーが現れた。容姿も性格も非の打ちどころがなく、何かとインディアに優しいチャーリーに、母親は好意を抱くが、インディアは惹かれながらも不審を抱いていた。
同じころ、インディアの周りでは、長年勤めていた家政婦や祖母が失踪していった。チャーリーの出現と彼女らの失踪は関わりがあるのか。誕生日に届けられた鍵は、何を開けるものなのか。

ミア・ワシコウスカといえば、ティム・バートン版『アリス・イン・ワンダーランド』のアリス。変わり者で不機嫌そうな顔の彼女が、アンダーランドの冒険と戦いを経て、活き活きとした表情になっていくのが魅力的だった。
本作のミアも、憂鬱そうな表情からしだいに活き活きとしてくるのが魅力なのだが、アリスに比べインディアの冒険はよりおぞましく、生々しく、それでいて美しい。

ゆで卵をテーブルの上でゴリゴリと転がす音。脚を這い登るクモ。血のついた鉛筆を削る音。インディアが履く新しい靴。草むらに飛び散る血。細やかで危険で美しい描写が、インディアの鋭敏な感覚を伝えるだけでなく、エロティシズムさえにじませる。
シャワーと自慰というダイレクトなシーンもあるが、それよりもエロティシズムが高いシーンが、インディアとチャーリーの連弾。ほんのわずかに動くインディアの足首が、また一段と官能的なのである。

『アリス』のときはあまりセクシュアリティを感じなかったミアだが、本作ではおそろしく妖艶。叔父・チャーリーのマシュー・グードも、相手を見つめる大きな瞳と微笑を絶やさない口元が、謎めいた魅力と危うさに満ちている。この2人の間に立つ母親・エヴィのニコール・キッドマンが、本来もっとも華やかでゴージャス感もあるというのに、霞んでみえるほどである。
もっとも、ここでは母親が霞むことが正しい。エヴィとインディア/チャーリーの間には、彼女が思っている以上に大きな壁がある。おそらくその正体は、チャーリーとインディアとをつなぐストーカー家の血筋である。(本作の原題は『Stoker』)

アリスは一人不思議の国に留まる……とはいったものの、実際のところインディアは住み慣れた庭(=イノセント・ガーデン)から旅立っていく。つまりは少女から女性への変態であり、脈々と伝わる血筋の目覚めでもある。欲望から解き放たれ、その血筋からも自身を解き放ったアリスは、もうもとの少女に戻ることはできないのだ。

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