2013年10月25日金曜日

ウルヴァリン:SAMURAI

ウルヴァリンは二度死ぬ。

ウルヴァリン:SAMURAI('13)
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ヒュー・ジャックマン、真田広之



これまでのX-MENシリーズ観たら、本当なら死んでるのは二度どころじゃないけどね。

『X-MEN ファイナル・デシジョン』の結末ののち、カナダの山に籠って世捨て人生活を送っていたウルヴァリンは、日本人女性・ユキオに招かれ日本へ飛ぶことになる。ユキオの雇い主は、第二次大戦中長崎で命を救った兵士・矢志田。病気と老衰で死の床にある矢志田は、昔助けられたお礼として、長年ウルヴァリンを苦しめてきた不老不死の能力を取り去ることを申し出る。
その夜矢志田は亡くなり、葬儀が執り行われる中、矢志田の孫・マリコを狙ってヤクザの襲撃が。ウルヴァリンは彼女を助け共に逃げるが、なぜか彼の治癒能力は矢志田の死と同時に失われていた。

主君を失った浪人のごとく孤独な戦いを続けるウルヴァリン……のはずが、蓋を開けてみれば(開けなくてもだいたい想像がつくけど)、ジャパンだ! ヤクザだ! ニンジャだ! そしてサムライ! と、ここが変だよ日本珍道中。
しかも、いち暴力要員ヤクザが新幹線(時速220~300キロぐらい?)の上に生身&ナイフ1本でへばりつけるという、ミュータントとほぼ互角の身体能力という過剰サービス描写。これで世界のジャパニーズヤクザ(またはジャパニーズドス)に対する基準が上がってしまったのではと、妙な心配すら湧いてくる。
一方、ニンジャは代表のハラダさんがどう聞いても日本語カタコトなのは気になるが(実際、役者さんは韓国出身のウィル・ユン・リー)、高田馬場の雑居ビルの上をピョンピョンするパルクール忍術は楽しそうだったよ。

最後には甲冑のシンゲンさん(真田広之!)やシルバーサムライも出てくるし、もう足りないものはゲイシャと「お背中流しましょうか」ぐらいじゃないだろうか。まぁ、確かに背中は流してたけど、アレは拾ってきたド汚い犬をゴシゴシしているようなもんだから……。

ちなみに、そんな昔ながらのお約束的変なジャパニーズカルチャーがある一方、ムダにオモシロ設備のラブホテルとか、英語が分からず「ノーイングリッシュ!」を連呼する受付のおばちゃんとか、その息子がこれまたムダに「オーケー」を連呼するとか、細かいところでは変なリアリティがあるんだよなぁ。まさか、スタッフさんの実体験や目撃談に基づいているのではないだろうな。

日本人キャストも携わり、日本ロケも敢行して、それがどうしてこうなった? というツッコミどころが溢れ返っている。しかし決して雑に扱われてるわけじゃない。
本作の日本を観たときのこの感覚、どこかで経験したような気がと思ったら、『007は二度死ぬ』(1967)だ。秘密警察のボス(丹波哲郎)の基地が地下鉄中野新橋駅にあり、姫路城でニンジャが訓練しているトンデモ日本。しかし、火山の下に秘密基地を持つ悪の組織をボンドが倒す! という豪快なスパイアクションを主軸にした結果、ヘンな日本描写なぞマイナスにならない娯楽作になった。

本作も、ヒーリングファクターを失って苦戦しつつ、鉤爪ファイトに余念のないウルヴァリン無双という主軸はキープ。登場するミュータントは毒蛇美女ヴァイパーぐらいだが、ユキオやシンゲンやヤクザ連中が豪快アクション路線で魅せてくれる。
特にユキオは、福島リラさんがテコンドー経験者ということもあって、アクションのキレがミュータント級。赤ボーダーやミニ丈喪服といったファッションも、黒髪に清楚感ただよう衣装のマリコと対照的で目に楽しい。

トドメの城型要塞と巨大なシルバーサムライなんて、ますます007(コネリー~ロジャー・ムーア期の)だ。一番007との相似を覚えたのは、九州から東京までアウディで1時間ちょいで着くというマジックだが(『二度死ぬ』では、東京~神戸間がトヨタGTで20分ぐらい)。
オモシロさを突き詰めるために、徹底したリアリティは常に必要条件ではないと再認識した次第である。

なお、この映画も大多数のマーベル作品と同様、エンドクレジット始まったからといって席をたっては(あるいはディスクを止めては)いけない作品。
あんなにとっ散らかった『ファイナル・デシジョン』のあと、また風呂敷広げ始めたようで、どうなるんでしょうかね?

2013年10月7日月曜日

パシフィック・リム絶叫ナイト@池袋シャッタードーム

ブレイン・ハンドシェイクはスクリーンを超える。

パシフィック・リム絶叫ナイト(3D吹替版)
2013. 10. 05. シネマサンシャイン池袋 池袋シャッタードーム



以前、「ガヤスクリーンに関する思いのたけ」という記事で、『ロッキー・ホラー・ショー』のように歓声あげたりツッコミ入れたりボケたりしながら映画観賞できたらいいのにという旨をぶちまけたことがある。
まさかそれから1年弱で、しかも自分の大好きな映画で実現されるとはなぁ。

一足先の9月29日に、立川シネマシティ改め立川シャッタードームで実施されていた爆音絶叫上映会。予約の時点からアクセス過多の憂き目でチケットを獲れなかったものの、Twitter経由の実況レポートから見て取れたのは、席から立ち上がってアクションつきで声援やツッコミを飛ばすだけでなく、上映前にDJイベント、コスプレ来場者も多数という、まさしく夢見た「ガヤスクリーン」であった。(その盛り上がり具合はこちらのまとめに詳しく掲載されている)

パシフィック・リム』を観た当初は、確かにその世界観や監督の心意気で一気に大好きになったものの、正直この作品が絶叫上映にピッタリとまでは考えていなかった。
が、立川シャッタードームのレポートを見るにつけ、イェーガーと怪獣とのバトルで声援と歓声に包まれ、シャッタードーム職員と一緒に一丸となって拍手喝采する一体感が目に見えるようで、実は絶叫映画体験に非常に向いた映画だと確信した。
その余波と、ファンからの「立川以外にもシャッタードームを作りたい(=爆音上映やってほしい)」という要望が届いたのだろうか。『パシフィック・リム』3D吹替版を延長上映していたシネマサンシャイン池袋さんが、5日の最終上映を、急遽「絶叫ナイト」にしてくださったのは……。

都心部でキャパシティもそこまで広くない劇場であるせいか、思ったほどコスプレの方は登場せず。でもニュートっぽい人はちらほらと見かける。そういう自分もニュートで来た。
開演前イベントは特になかったので、上映前の雰囲気は普段の映画館と変わらない。しかし、普段なら次回上映作の予告を流すところで、『パシフィック・リム』吹替版予告が2本。肩慣らしとして劇場さんが気を使ってくれたのだろうか、いずれにしても効果は絶大で、突如劇場は歓声と拍手に包まれた。そのあとの「No More 映画泥棒」のCMにすら手拍子が起きるほどだった。

序盤、怪獣との戦いの歴史が語られるところでは、まだざわつくだけだった会場だが、いよいよローリーが登場し、寝ているヤンシーを叩き起こすころになると歓声があがりはじめる。ジプシー・デンジャーが出撃準備に入ると、メインテーマに合わせて手拍子が(そしてその合間、テンドーの初登場に女子の歓声)。ナイフヘッドとの戦いになると、ジプシーの攻撃が決まると歓声&拍手、ナイフヘッドの反撃およびヤンシーの死に悲鳴が上がり、徐々に絶叫上映のモードが形作られていく。
立川に比べると、オーディエンスの手探り感が強いのかもしれないが、急遽作られたイベントとしては上々だったんじゃないかと思いたい。

ところで、池袋の音響システムおよび事情は、やはり立川とはちがうのだろうか。絶叫イベントなので音量は通常の上映より大きめだと思うのだが、それでもときどき観客の声に負けていた。かの「ロケットパーーンチ!!!」(吹替版では『エルボーロケット』ではない)ですら、ちょっと聞こえなかったぐらいだもんな。
ガヤスクリーン記事を書いたときは、「シネコンさんスクリーンの1つぐらい譲ってくれよ」と軽い感覚だったけど、他のスクリーンに響かないようにという配慮や劇場の構造を考えると、音響問題はそう簡単なことじゃないのだろう。反省。

以降は、バトルになれば声援、好きなキャラを歓声で迎え、時折面白ツッコミ(ボケ)が入る。Twitterには忘備録として逐一掲載したが、以下ではその中でも特にインパクトの強かった反応を紹介したい。

  • アラスカ基地へイェーガー計画終了を伝えるお偉方に、「何で!?」「ケチ!!」果ては「クズ!」とブーイングの嵐。
  • 壁の建設現場にて。配給カードを持った親方が「食事と金が欲しいやつはいるか!!」と呼びかけると、客席から「はい!!」とまさかの立候補が。
  • イェーガーではやはりチェルノ・アルファが、カイダノフスキー夫妻込みで一番人気。食堂シーンで、短いながらも仲睦まじい夫婦のショットに「ヒューヒュー!」と冷やかしが
  • 犬のマックスもなぜか安定の人気。
  • 博士コンビ、吹替ボイス効果もあってか安定のお笑い担当。ニュートが怪獣の内臓を床にポイしたのを見て、ゴットリーブより先に「あー!」と言ってしまったよ。
  • 字幕版では「(息子を)叱るべきタイミングが分からず……」発言に「今でしょ!!!」とツッコまれていたハーク。吹替版では「褒めるべきかひっぱたくべきか分からず……」との言葉に「ひっぱたけ!!!」と指導されていた。
  • 半裸のローリーと目があって慌ててドア閉める(でもスコープからこっそり覗く)マコ、部屋を間違えるマコ、ローリーと思って笑顔でドアを開けたら司令官がいて萎縮するマコ。男女問わず常に「可愛いーー!!」と叫ばれていた。
  • ローリーが候補生を倒したときより、マコがローリーから一本取ったときのほうが歓声がデカいトライアル風景。
  • ローリーとチャックのケンカに「いいぞー!!!」と野次とばし。友人の「親父にも殴られたことないのに!」もナイスボケでした。
  • 「ハンニバル様ーー!!」「ハン様!!!」と、ハンニバル・チャウに謎の女性人気。例の片方の靴にすら、「デカい!!」はともかく「その靴ください!!」って。あれはハンニバル親衛隊日本支部だったのだろうか。
  • 香港戦は一番の盛り上がり。出撃の歓声→バトルに声援と悲鳴(特にチェルノ)→そしていよいよやってきたジプシーにここ一番の大喝采。チャック以上に「いいぞ!!」「やっつけろ!!!」と盛り上がる。レザーバックにプラズマを打ち込むときには、立川で有名になった「もう一回! もう一回!」コールが。
  • 一番歓声(というかどよめき)をもらった怪獣は、翼を広げた瞬間のオオタチだったと思う。
  • ハーク「ここで待つか、照明弾でバカな真似をするかだ!」→観客「バカな真似をしよう!!!」
  • シェルター内でニュートがメガネを落とすと、一斉に「メガネメガネ」とエアメガネ探し。
  • 「一緒にドリフトをする」「世界が滅亡しようとしている。他に選択肢があるか?」「も……もちろん! 一緒に怪獣をやっつけよう!(ペチペチ握手返し)」ゴッドリーブ博士が一番歓声をもらった瞬間。その後の2人ドリフトが、一緒にカウントダウンする観客の声が一番大きかった。

香港戦のあとにもなると、もはや観客はシャッタードームの職員たちと一体化していた。パイロットたちを拍手で迎え入れ、司令官の演説に聞き入ったのち本当に戦いに向かう勢いで拍手し、仲間を失うときには悲痛な声が漏れ、「タイマーを止めろ!!」ではもう割れんばかりの喝采が。あれはスクリーンを超えた、クルー1人1人と観客1人1人の巨大なブレイン・ハンドシェイクだったのだと勝手に信じている。
エンドロールでも手拍子が続き、「レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ」に最後の喝采。場内ライトが点くころには、「ありがとーーー!!!」「お疲れ様でしたーーーっ!!!」の声が飛び交い、辺り一帯は奇妙な連帯感に包まれていた。この瞬間、シネマサンシャイン池袋は、本当の意味でシャッタードーム池袋になった。

そして、この謎の連帯感の勢いで、場内とロビーはちょっとした写真撮影会へ流れ込む。私も勢いで人見知りフィルターが取れてしまったらしく、素晴らしきファンメイドTシャツとグッズの撮影に走るのだった。
拍手のしすぎとボルテージの上がりすぎで、手ぶれを補正してくれるスマートフォンのカメラでさえもたないほど、右手がプルプル震えたままだったのだが……もしや、これがドリフト酔いというやつなのだろうか!? 脳への負荷がデカすぎたのだろうか!? この後東京にオオタチが来てしまうかもしれない!! ……とまで考えてしまいました。

この日いっぱいはドリフト酔いという名の高揚感でいっぱいいっぱいだったのだが、翌日ツイートまとめを確認してみると、先述の音響問題以外の絶叫イベント課題もちらほらと明らかになってきた。
ついついファンイベント感覚になってしまっていたが、池袋という場所と時間柄もあってか、会社帰りなどに初めて本作を観に来たお客さんもいたらしい。そうした方々には、映画の声が聞こえなくなるほどの歓声や、某シーンでの「志村後ろー」的発言などネタバレにつながるツッコミは、ただただ迷惑だったようだ。
一応窓口やWebで「本日この回は絶叫上映です」「静かに楽しみたい方は他の回で」とのアナウンス・表示はあったらしいのだが、もう少し大々的に伝えてもよかったのではないだろうか。その際、「うるさくなる」「ネタバレにつながる可能性あり」という注意書きも必要かもしれない。

確かに、あからさまなネタバレ発言は場を白けさせるだけだし、先の「志村後ろ」も熱心なファンは盛り上がるが初見の方には苛立たしかったのだろう(その点は少し反省したい)。
だが、『ロッキー・ホラー・ショー』の上映会しかり、歓声やツッコミには「お約束事」の意味が含まれることが多い。また、歓声をあげるタイミングも、展開を知っているだけにうっかり周りよりワンテンポ早くなってしまう可能性もある。絶叫イベントで、完全なるネタバレを防ぐのは難しいと思われる。

こうした課題を乗り越える最良の方法は、絶叫上映というイベントを、もっと映画界でポピュラーな存在にしてしまうことだ。
せっかくファンの側からのアプローチで再上映、上映延長、果てはイベント開催までこぎつけた映画現象なのだから、アプローチがさらに進めば、シャッタードームがもっと全国に広まるかもしれない(実際、10月13日には兵庫県尼崎市で『爆音激闘上映』が)。もっと楽天的な見方をすれば、マスコミがエンタメニュースとして拾うかもしれない。

もちろん、そんなに簡単に行くはずのない話である。しかし、大好きな映画をもっと楽しんで観賞したいという映画バカたちの新たな試み、押し進めてみる価値は多いにあると思いたい。


まさか、それをデザインに! 東京シーンの名(迷)看板Tシャツ。背面はコヨーテ・タンゴの勇姿。

ジプシー・デンジャーのクルーTシャツ。ホントに売っててもおかしくないクオリティ!

寄生虫ぬいぐるみ!? 普通創作なんて思いもつかないのに!! 何だここは、天国じゃないか!