2014年3月23日日曜日

アダム・チャップリン/テーター・シティ 爆・殺・都・市

なぜ破壊する? そこに人体があるから!!

アダム・チャップリン('13)
監督:エマニュエル・デ・サンティ
出演:エマニュエル・デ・サンティ、ヴァレリア・サンニノ


テーター・シティ 爆・殺・都・市('13)
監督:ジュリオ・デ・サンティ
出演:モニカ・ムニョス、リカルド・ヴァレンティーニ





Q:あなたがこの映画を通して、もっとも伝えたかったことは何ですか?

エマニュエル「ケンシロウになりたい!!!」
ジュリオ「人体破壊最高!!!」
エマニュエル「あーずるい、オレも人体破壊最高!!!」
ジュリオ「グチャドロも最高!!!」

このインタビューは200%架空ですが、あながちウソでもない気がします。

アダム・チャップリン


悪魔と契約し最強の肉体と殺人拳を手に入れた男、アダム・チャップリン。右肩になんか崩れた赤ん坊っぽい悪魔(仮)が憑いてるけど気にするな。愛する妻を無惨に焼き殺した街のボス、デニーを追い、アダムはすべてを血祭りに上げる……!!

……そんなストーリーはあって無いようなもので。
会話シーンはダラダラしているし、警官が下水路を進むシーンなど不要に長いところも多い。アダム追跡のためにデニーに強制的に雇われた通り魔マイクなんか、中ボス的立ち位置かと思いきや、活躍もなく退場させられていた。
だが!! そんなダラダラモヤモヤはアダムが血の海で流してしまえばいい!! 肉体と一緒にメタメタに破壊してしまえばいい!! アータタタタタタタタタタタタ…………!!!!!!!!!

……という雄叫びはさすがにないものの、超高速で繰り出される拳のラッシュは、どう見ても『北斗の拳』。雄叫びを脳内再生せずにはいられない。ただ、秘孔を突かれて死んだことにも気づかない本家北斗の拳に対し、犠牲者はほぼ肉片と化していようとギリギリ生きてたりする本作。「お前はもう死んでいる」じゃなくて「お前……まだ死んでないの……!?」である。

しかもこの北斗神拳(仮)、デニー一味ら敵に対してのみならず、そこらの警官やチンピラに対しても炸裂している。情報を聞き出すために相手を痛めつけるアウトローは珍しくないが、人体半壊~全壊まではセガールだってやらないだろう。
まぁ、映画本編を作るより早く合成血糊を開発するぐらいバイオレンスに気合いが入ってるので、倫理的にはアウトでもどんどんやってくれと応援せざるを得ない。

『北斗の拳』や日本の格闘ゲームを愛するあまり、ケンシロウになりたくなって肉体改造までしまったエマニュエル・デ・サンティ。監督・主演のみならず、脚本、音楽、撮影監督まで手がけているので、本作のエンドクレジットはエマニュエルの名前だらけ。黙っていればイケメンなのに、何とも残念な男だ。
つまり、ボンクラスピリット仲間として、勝手な友だち意識を持ちたくなる奴だ!! イケメン指数全敗だけど!!

テーター・シティ 爆・殺・都・市


テーター・シティは異常な都市だ。オーソリティーと呼ばれる組織が統治するこの街には、犯罪者の思考にのみ影響する特殊電波、ジード・システムが流れ、電波をキャッチした犯罪者は自らの身体を破壊する。そしてバイカーズと呼ばれる特殊警察が後始末にあたり、回収された死体は食肉に加工されハンバーガーとして提供されている。
しかし、電波が効かないどころか、叫び声で周囲の人間を凶暴なミュータントに変えてしまう殺人鬼・トレバーが出現し……。

……そんなストーリーはあって無いようなもので。
ときどき挟まれるオーソリティーのプロパガンダや人肉バーガーCMが話の流れを妨げている感も……と敢えての苦言を呈そうとしたら、そもそも「話の流れ」ってものが大してなかった。ジード・システムもバイカーズも、例の独自開発の合成血糊をふんだんに使って人体破壊ショーをやりたいがために考えた設定だな、とツッコまずにはいられない。実際、血がブシャブシャだの頭がボカーーンだのサービス過剰なまでのバイオレンスシーンがこまめに入った状態で突っ走る話なので、ダレた気はしない。
山が多すぎて、クライマックスまでのカタルシスに欠けるのが難点だが。

ミュータント殺人鬼のトレバー役は、エマニュエルの弟にして本作監督のジュリオ・デ・サンティ。正直、一応のヒロインであるバイカーズのレイザーは巨乳要員がメインのお仕事だし、他のバイカーズはほとんど顔を出さないので、見せ場の多くを持って行ってるのはこのトレバー君である。
自身のお顔をフォトショップ(エンドクレジットに名前出てたからたぶんそうなのかと……)加工して不気味なギョロ目になっているジュリオだが、素はエマニュエル兄貴に劣らぬイケメン。ちなみに『アダム・チャップリン』にも出演していて、兄貴にボコられて悲惨なことになってました。個人的には、似ていると思ったので「荒川良々系イケメン」としてプッシュしてるのですが……どうでしょうか?

そして、エンドクレジットのスペシャルサンクスに連なる、北野武、三池崇史、ジョン・カーペンター、ポール・ヴァーホーヴェン、そして「すべてのカプコンゲームスタッフ」の名前。こいつを見ちゃうと、なんだかんだでまた勝手な友だち意識が湧き上がってしまいますよ。


この2作を輩出している制作会社がネクロストーム。デ・サンティ兄弟の弟ジュリオ君が社長を務めている。
昔のVHS映画風の悪趣味・低俗・チープ愛に溢れたスプラッターがウリで、このあとも『ホテル・インフェルノ』、PCゲーム『デス・カーゴ』を発表。アニメーション『アリスのネクロランド』もリリースを控えているし、『アダム・チャップリン2』『テーター・シティ2』の制作も予定されている。
作品としては苦言を呈したいところもたくさんあるが、バイオレンスのやんちゃ度合とインスピレーション元への誠意を見れば、キライになれるわけがない(個人差あり)。
執拗に移されるグチャドロな死体すら、「一生けんめい作ったんだよ! 見て見て!」という小学生の図工メンタリティに溢れているようで、微笑ましさすら感じる(もっと個人差あり)。

ダメ出しすることもあるけれど、私はネクロストームが大好きです。これからも頑張れ、デ・サンティ兄弟!!!

2014年3月2日日曜日

ヘンゼル&グレーテル

魔女が来た! いつものようにぶん殴れ!!

ヘンゼル&グレーテル('13)
監督:トミー・ウィルコラ
出演:ジェレミー・レナー、ジェマ・アータートン




「いや、そりゃ確かにあいつバカだよ。
アイディア一発で突っ走って、細かいことあまり考えてない奴だよ。
でもって、相手が何であれしまいには肉弾戦になっちゃうような奴だよ。
だけどさ、そこが憎めなくて面白いんだって!!」
ダメ人間の友人を擁護してるような内容ですが、トミー・ウィルコラ監督の話です。

グリム童話で有名なあのヘンゼルとグレーテルは、成長して魔女ハンターになっていた!

というネタでひた走るアクション。幼少期にお菓子の家の魔女に沢山食べさせられたヘンゼルが糖尿病だったり、兄妹の出自に秘密があったりもするが、その設定は大して活かされてない。
じゃあ、何が見どころなのかというと、魔女vs兄妹の肉弾戦。一応、ヘンゼルとグレーテルは銃だのボウガンだのと飛び道具を持っているし、魔女だって当然魔法を使うが、そういった特殊バトルはあまり長続きせず、何をしても最後には掴み合い&殴り合い&ぶん投げ合いのフルボッコ合戦に至る。もはや、普通の人間と戦うのとあまり変わらない。

思えば、ウィルコラ監督の前作『処刑山 デッド・スノウ』でも、雪山に現れたナチスゾンビ(パッケージ表記は『ゾムビ』)は、一般的なゾンビの喰らいつき攻撃&物量作戦ではなく、ぶん殴ったり陣形組んで突撃したりとストレートな物理攻撃型。それはおかしいだろ! アホか! とツッコミいれつつ、もはや妙な清々しさまで覚えさせてくれるバカバカしさだった。
これはもう、ウィルコラ監督のカラーだと割り切って(あきらめて?)、このノリに心を委ねるのがベストな観賞方法かと。

ちなみに、グレーテルを演じるジェマ・アータートンは『007/慰めの報酬』で、大魔女ミュリエルを演じるファムケ・ヤンセンは『007/ゴールデンアイ』で、それぞれボンドガールを務めた関係。つまりヒロインと悪役とでボンドガール経験者対決と相成ったわけだが、やはりゼニア・オナトップの貫録勝ち感は否めませんね。

また、ホラーファンとしては、心優しきトロール・エドワードのモーション・キャプチャーが、リメイク版ジェイソンことデレク・ミアーズというのも嬉しいポイント。
ホラーのみならず、映画界で胡散臭い奴・怪しい奴・信用できない奴といえばこの男! なピーター・ストーメアも顔を出してます。

しかし、まさか一番ネタになったのが、未公開映像のジェレミー・レナーの「そして殺す」カットになろうとは。下手をすると、ジェレミーの名を一番広めたのは、『アベンジャーズ』のホークアイよりもこちらかもしれない。いや、それより何より、『アベンジャーズ』や『ハート・ロッカー』でジェレミーの知名度も上がっていただろうに、なぜに本作をDVDスルーにした……?

皆さん、この人↓の名前は「そして殺す」おじさんじゃありませんよ。
ジェレミー・レナーですよ。


そういえば、前述の『処刑山 デッド・スノウ』の続編『Dead Snow 2 : Red vs Dead』の予告編が公開されましたね。殴る! えぐる! ぶっ刺す! いつもより余計に臓物出しております!! と、お得意の肉弾戦満載でしたね。
しかも、猪突猛進&喧嘩上等なナチスゾムビさんたちにソビエトゾムビさんたちも加わった! ノルウェーじゃゾムビは墓場じゃなくても運動会するんですね。ハイレベルな血みどろバカ作品が期待できますね。だから求む!!  日本劇場公開!! 

未体験ゾーンの映画たち2014に寄せて

スクリーン上の出会いに意義がある。

未体験ゾーンの映画たち2014
ヒューマントラストシネマ渋谷 2014.01.18.~2014.03.07.


何はともあれ、まず、こうした作品の数々との出会いを作ってくれた、この企画に感謝します。ありがとうございます。

それにしても、映画を劇場公開するというのは、かくも難しいことか。ベネディクト・カンバーバッチ、マシュー・マコノヒーといった今人気の俳優や、ポール・ヴァーホーヴェン、ヴィンチェンゾ・ナタリといった通受けする監督の名前をもってしても、作品がDVDスルーの危機に追いやられるとは。

確かに、ここで上映されている映画は、小粒の良作かボンクラ系の、いわばミニシアター系である。うまくいけばロングランになるかもしれないが、『アメリ』や『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の成功が予測不能だったように、何が当たりになるか分からない。俳優や監督のネームバリューすら成功の当てにならないだろう。ましてや、これまでそうした作品を上映してきたミニシアターが、次々閉館しているご時世である。簡単に公開しますというのも、映画館にとって厳しいだろう。

そんなご時世だからこそ、なおさらこの企画はありがたい。
私個人の感覚だが、DVDでレンタル/購入した映画や、専門チャンネルから録画した映画は、どれほど気になっている一本であろうと、観賞を先伸ばしにしがちになる。下手をするとそのまましばらく存在を忘れている。良作だろうとボンクラだろうと、せっかくの作品が未体験のままに終わってしまう可能性があるのだ

劇場公開には期限がある。その分、終わる前に観に行く意欲が沸く。ついでに、上映作品がボンクラ系であるなら、同じスクリーンにいる観客の皆さんが、勝手ながら友だちに思えてくる。
作品の体験だけじゃなく、作品を上映する空間も体験させてくれる。そんなゾーンが今後も継続してくれること、増えてくれることを、心より祈っています。

ちなみに……

未体験ゾーンの映画たち2014極私的ベスト

1位 ポール・ヴァーホーヴェン トリック
悪人と言い切れない程度にヤな奴だらけの、まさかのヴァーホーヴェン流ホームコメディ。

2位 チェインド
殺人鬼と、殺人鬼に飼い育てられた少年との、あまりにも奇妙な疑似親子関係。ジェニファー・リンチは間違いなくお父さん(デヴィッド・リンチ)の変態性を受け継いでいる。ただしお父さんの『ツイン・ピークス』や『イレイサーヘッド』ほど浮世離れしてはいないから、地に足のついた変態ね。

3位 アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー
タイトルそのままど直球。でもコーマン先生は「セクシーなチアリーダーが巨大化」と聞いてお客が観たがるものを掌握してらっしゃるので、出オチには終わりません。

4位 MUD
5位 ザ・ドア 交差する世界
6位 ミスティック・アイズ
7位 テーター・シティ 爆・殺・都・市
8位 スキンウォーカー・プロジェクト
9位 ハウンター
10位 アダム・チャップリン

最後に、唯一未体験ゾーンを飛び出し、バウスシアター(残念ながら今年5月末に閉館……)で公開が決定した『MUD』に、おめでとうを言わせてください。上位3作を占めた私の好みはボンクラと変態ですが、最も普遍的に優れた作品はこれだと思います。

映画本編だけでなく、スタッフさんの作品レコメンドにも秀作の数々が見受けられました。
こちら↓は『最強ゾンビ・ハンター』のレコメンド。

こちら↓は『フィンランド式残酷ショッピング・ツアー』の。
「食人は文化だ」……