2015年9月15日火曜日

ABC・オブ・デス2

今年もよく死んだ!!

ABC・オブ・デス2('14)
監督:エヴァン・カッツ、ジュリアン・バラット他
出演:



「死」をテーマにした5分以内26の短編……という名目ながら、その実それぞれの監督たちの趣味の悪さ(転じて良さ)および変態度が世界中のホラーファンに測られるという意味でも、えげつなく恐ろしい企画。

今年は全体的に趣味が良く変態度は控えめ……と映ってしまうのは、前回の『ABC・オブ・デス』にウ○コとかゲ○ネタが多く、しかも我らが日本勢に井口昇(このまま世界が終わるなら憧れの女教師のおならで窒息したい美少女)と西村喜廣(人類絶滅はアメリカの○○○と日本の×××から始まるのだ)というスーパー変態がいたからか。また、「『ABC・オブ・デス』の企画に悩む監督自身」というメタネタも、前回「Q」と「W」でダブリが生じてしまったせいか今回は見受けられない。

以下、前回同様タイトルが極私的お気に入り、タイトルが極私的まずまずの1本である。

A=Amateur(アマチュア)

仕事の依頼が舞い込んできた殺し屋。潜入と殺害のシミュレーションは完璧。あとは実行に移すのみ。ところが彼は……。
物理的にも精神的にも痛々しい殺し屋さんの失態が、不器用人間には身につまされるだけにいっそうイタく映る。それだけにあのバカみたいなラストが痛快ですらある。今回もツカミの一本は優秀だった。

B=Badger(アナグマ)

地域の環境汚染により死滅してしまったアナグマについてのドキュメンタリーを撮るクルーとイヤミな動物学者。だがどうやらアナグマは死滅したのではなかったらしく……。モンティ・パイソンを彷彿とさせるチープなブラックコメディ。

C=Capital Punishment(死刑)

少女殺害の容疑者と、彼の死刑を求める村民たち。無実を訴える容疑者は警察の手に委ねられる……のではなく、村民たちの手によって断頭されることに。
中学の社会の授業で、「ギロチン以前は斧で首を落としていたが、死刑執行人の手際が悪いと一撃で死ねず大変なことになった」と習ったものだが、本エピソードがまさにそれ。何より悲惨なのは、彼は本来「容疑者」止まりにすぎなかったこと。ということは、その因果が向かう先は……

D=Deloused(駆除)

謎の集団に殺された男は、踏みつぶされた虫の力を借りて甦り、復讐を果たして虫に借りを返すが……。『ヘルレイザー』meetsクローネンバーグ(虫が尻から捕食したり意思を伝えたりするし)のような、粘着質で肉々しくてエグいクレイアニメ。

E=Equilibrium(平衡)

流れ着いた無人島で気ままに暮らしている男2人。ある日、自分たちと同じく漂着した美女を助け、一緒に暮らし始める。しかし、男2人に女1人は釣り合いがとれず……。
重要なのはバランスだって『テキサス・チェーンソー・ビギニング』のホイト叔父さんも言ってましたよね。どちらをとるかは人によるだろうけど。
ちなみに監督は『ゾンビ革命 フアン・オブ・ザ・デッド』のアレハンドロ・ブルゲス。アホなほど能天気な音楽もイイ。

F=Falling(落下)

イスラエルの女兵士がパラシュート落下したのはパレスチナ。そこへ少年兵が通りかかり、彼女にライフルを向ける。この顛末の痛々しさと虚しさは、監督がイスラエル出身ゆえか。

G=Grandad(祖父)

口の悪いジイさんとアタマ悪そうな孫のいがみ合いと殺人。おめでとうジム・ホスキング監督。今回の「ABC・オブ・ド変態」枠は君だ。何だあのジジイは。

H=Head Games(駆け引き)

男女の駆け引きを、文字通りアタマの戦いとしてシュールな線画で描く。しかしこれこそ「D」みたいなグロテスクアニメで作ってほしかったな。

I=Invincible(無敵)

財産目当てにあらゆる手を使って母親を殺害しようと試みる兄弟たち。だが、この老婆は訳あって何をやっても死なないのだ! 最強(最凶)ババアってフィクションで観ている分には痛快だなぁ! 
ちなみに監督はシンガポール出身。アジアンホラーも勢いづいているのである。 

J=Jesus(ジーザス)

ゲイの息子を無理やり「矯正」させようとする狂信的な父親と神父。すると息子の両手と頭に聖痕が現れ、さらに……。
ゲイは罪で、ゲイ殺しは罪に問わんのか! と、散々培われてきたキリスト教原理主義に対するイライラがまたしても募ります。

K=Knell(凶兆)

マンションの自室でペディキュアを塗っていた女性は、隣のマンションの上空に黒い球形の影が漂っているのを目撃する。ほどなくして、マンションの住民たちは殺し合いを始める。そして異変は彼女の住まいにも押し寄せてくる。
何かが迫ってきているのだが何だか分からない不安感、ペディキュアの赤黒、経血の赤黒、謎の影の赤黒が入り混じるおぞましさと美しさ。繊細なラインの上に立つ一本だった。

L=Legacy(遺物)

ウビニランドなるどこぞの未開の地。王妃の計略で生贄に捧げられそうになった王子は、死刑執行人の計らいで命を助けられる。だが王子の怒りにより、ウビニには怪物が現れ、人々を襲いだした。
この怪物が着ぐるみ(厳密にはあまりくるんでない)丸出しで何か可愛いのだよ!


M=Masticate(かみつき魔)

今回の一般公募枠。完全にイッちゃった目で走ってくるパンイチのおっさんが、通行人に噛みついて射殺されるまでをスローモーションで描く。このネタを完全なものにしているのは、最後の最後にオマケ程度に挟まれる「34分前の出来事」ってのがオカシイ。

N=Nexus(連鎖)

ハロウィンの日に起きたあまりにも不幸な惨劇。あと少し早ければ、あのときこうでなければ……という仮定はいくらでもできるが、どう考えても99%はタクシー運転手が悪い。
ところでこの監督ラリー・フェッセンデンはホラーにちょこちょこ顔を出す俳優でもある。彼が第一犠牲者を演じた『サプライズ』の殺人鬼が被っているヒツジマスクが出てくるのはそのせい?

O=Ochlocracy(Mob Rule)(愚民政治)

日本代表の1人、『へんげ』の大畑創監督。ゾンビの自我を戻すワクチンが開発されたなら、ゾンビハザードピーク時にゾンビを殺しまくった人間は殺人罪に問われるのだろうか? という深いような実はそんなことはないような裁判劇。どう見てもアタマ悪そうなゾンビ裁判官やゾンビ弁護士、証人も首だけだったりして、バカバカしくて救いようがなくておかしい。
ところで、2015年現在の国会答弁と照らし合わせて考えてみると、何か一気に笑えないムードになるね。

P=P-P-P-P-SCARY! (ピ ピ PS 怖い!)

残念ながら、今年のワースト枠。吃音のある脱走囚人3人組が遭遇する不条理な恐怖……といったところだが、デヴィッド・リンチを意識して思いっきりスベっているようだ。
なお、囚人の一人ポピーがPで始まる単語でなくとも「P-P-P-P」と詰まってしまう癖があるからこのタイトルになったのではと踏んでいるが、それにしたって設定活かされてないし、タイトルとのつながりも薄いからなぁ。
唯一収獲といえば、あの謎のおっさんが笑うとリーランド・パーマーことレイ・ワイズに似てるってこと。

Q=Questionnaire(アンケート)

路上でアンケート(というよりかなり頭をひねるクイズ)に答えている男。果たしてこの調査の目的は……と言いつつアンケートの様子と同時進行で、調査の結果何が起こるかも描いているのだが。オチとしてはちと弱いので、むしろこのオチの後が観たい。

R=Roulette(ルーレット)

死のルーレットといえばロシアン・ルーレット。当然たった1つの弾に当たった人が終わりだが、5つのハズレを引いて生き延びた人が幸運とは限らないことだってある。
何が興味深いって、監督メルヴィン・クレンがドイツ人であり、このシチュエーションがナチスから隠れるユダヤ人を彷彿させること。

S=Split(破局)

電話で話す夫婦。そのとき妻のもとに侵入者が……。死による夫婦の別離(Split)と、もう一つの夫婦の破局(Split)、そしてデ・パルマの系譜ともいえる画面の分割(Split)という鮮やかなトリプルミーニング。
そういえば、前作の「N=Nuptial」でも嫉妬に狂った人間の恐ろしさが描かれてましたね。あれはブラックな笑いだったけど。

T=Torture Porn(残虐ポルノ)

新人女優を下心満載で品定めするつもりのポルノスタッフたちが血の惨劇に。
もしこれが無名の監督の作品だったら「まあまあ面白いじゃん」ぐらいの評価だっただろうが、『アメリカン・メアリー』(原題。邦題の『アメリカン・ドクターX』とジャケデザインには納得いかん)で華麗なる人体改造と冷ややかな空気を見せてくれたソスカ姉妹の作品となると……どうしても「思ったよりおとなしい」という感想になってしまうなぁ。
ちなみにエンドクレジット後、最近悪趣味ホラー界に彗星のごとく現れた、強烈なルックスで勝利を収めたあのお方が出演してたりします。しかも、自身の出演作T着用で。

U=Utopia(ユートピア)

ブランドの広告のようにスタイリッシュで、美男美女だらけの世界。そこではブサイクはどうなるかというと……。『CUBE』のヴィンチェンゾ・ナタリらしい不条理ワールドだが、こうなると抹消され続けてきたブサイクの逆襲劇が観たくて仕方なくなってしまう。

V=Vacation(バカンス)

悪友とのバカンス先(タイ?)で、本国の彼女とSkype通話をする男。実は昨晩、売春婦の母娘と酒・ドラッグ・セックスとホラー映画死亡フラグ三種の神器を楽しんでいたのだった。バカ騒ぎが彼女にバレて一波乱かと思いきや、もっと悲惨な事態がすぐそこに待ち受けていた……。
スラッシャーミュージカル『絶叫のオペラ座へようこそ』のジェローム・セイブルが監督だが、歌も極彩色もなしで手堅いPOVもの。Skypeも立派な低予算映画手法となったものだ。

W=Wish(願い)

カシオ王子と魔王ゾーブが戦うファンタジーワールド「ゾーブ」のフィギュアで遊びながら、「王子を助けに行きたいな」と口にした少年2人は、「ゾーブ」の世界に吸い込まれてしまう。そこで2人が目にしたのは、ゾーブ軍による虐殺と拷問。しかも、ヒーロー側のキャラクターとて、彼らを助けてくれるわけではないのだった。
「アストロン6」のスティーヴン・コスタンスキ監督だけあって、手作り感溢れるチープ&グロテスクな世界は、まさに『マンボーグ』の系譜。ゾーブの城の拷問人には「T」のソスカ姉妹、捕まった兵士の中にはブランドン・クローネンバーグもいるぞ!

X=Xylophone(木琴)

レコードをかける祖母の横で、木琴を叩き続ける幼い少女。祖母は木琴の騒音に我慢ならなかったのか、孫の若さと可愛らしさに嫉妬したのか。そして、帰宅した両親が目にしたものは……。
去年の「X=XXL」に続き、またも「X」枠をフランスが獲得。これまた去年に続き、悪趣味でむごくて後味悪い結末にもかかわらず、ほんのスパイス程度に添えられた皮肉によって、洗練された良質の恐怖に昇華されている。恐るべしフレンチホラー、恐るべしチーム・屋敷女(ジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督とベアトリス・ダル)。

Y=Youth(若さ)

これも日本代表・梅沢壮一監督作。だらしなく、自分に無関心な母と義父のもとで育ち、自らを傷つけてきた女子高生が、遂に反旗を翻す瞬間。
この作品に関しては突き進む先が「死」ではなく「生」。生きていくため、憎悪のきっかけになった思い出を使って、イヤな母と義父を頭の中で殺していく。先の「W」とはまた一味ちがった、チープ&グロテスクなジャパンの特撮です。

Z=Zygote(受精卵)

出産間近の身重の妻を置いて、遠出してしまう夫。自分が戻るまで子を産むなとの言いつけ通り、妻は産道を閉じる薬=木の根をかじって帰りを待っていた。それから13年。夫はまだ戻らず、妻はまだ子を産まず、子どもは母の胎内で大きく育っていた……。
何と言っても、終盤のゴキボキグシャッペッという、クローネンバーグかクライヴ・バーカーかというぐらいのトランスフォーム(いや厳密にはフォームは変わってない)が見どころです。そしてインモラルに突っ走りそうなオチ。


今年は半分以上が割と気に入ってる枠となったが、他の人の意見・感想を見てみると、私が好む「A」や「O」はイマイチだったり、まあまあかなぐらいに思っていた「K」が一番好評だったり。どれを好むかによって、観客の映画の趣味や変態度もだいたい分かってしまう、やはり恐ろしいシステムだなぁ。

前述の通り、比較的趣味のいい死に様(?)だった死のABC第2弾。反動で今度の『ABC・オブ・デス3』は変態だらけになってたりするかもしれないが、それはそれで恐ろしくも楽しみである。
あと、監督に名前が挙がっていながら結局出なかった、園子温やアレックス・デ・ラ・イグレシアにも是非参加していただきたいなぁ。

↓「Y」で梅沢監督が使った特撮道具、キネカ大森に展示されてました。
どうやって使われてるか気になったら観てほしいよ。

0 件のコメント:

コメントを投稿