2015年9月26日土曜日

ムカデ人間

博士とムカデのセオリー。

ムカデ人間('11)
監督:トム・シックス
出演:ディーター・ラーザー、北村昭博




中学のころ、クラスの男子/女子が全員足を結んで前の人の肩を持って縦に並んで走る運動会競技「ムカデ競争」。私はそれのちょうど真ん中あたりで走ってたのだが、練習ランニング中うっかり転んだ。すると後続の人がつられて転ぶので膝下に圧がかかり、また先頭の人が異変に気付くまで1~2秒のタイムラグが生じる。そのため、ただの擦り傷がズル剥け傷に発展。
だが擦り傷よりもイタイのは、「チームワークを乱しやがって」という空気であった。

……そんなイタイ話を思い出したのは、ハイター博士の「真ん中はきついぞ」という一言があったからですよ!!

シャム双生児の分離手術で数々の成功を収めてきたヨーゼフ・ハイター博士には、密かな夢があった。人間を分離するのはもう飽きた。今度は人間をつなげるのだ。それも、口と肛門をつなげて消化器官を一体化し、前の人間が食したものを排泄と同時に後続の人間が食すシステム。題して「ムカデ人間」だ! 
タイヤのパンクで助けを求めてきたアメリカ人観光客リンジーとジェニー、よく怒鳴るが英語もドイツ語も通じない日本人ヤクザのカツローを捕獲した博士は、いよいよ夢の実現に向けて一歩を踏み出す……!!


「月からナチスが来た!」(アイアン・スカイ)みたいなアイディア一発勝負映画にはよく出くわすが、「人間の口と肛門つないでムカデ人間!」ほどくだらなくて下ネタな一発ネタは珍しい。しかもその一発勝負に勝っちゃってるんだから、世の中何が起きるか分からない。

よりにもよって口とケツがつながってるとか、要するに前の人のウ○コを自動的に飲まなきゃならないとか、生理的嫌悪要素は満載なのだが、意外にも直接的描写は避けられている。それどころか冷ややかな照明と色彩で、大変品のある変態ワールドになっているのだ。ハイター博士が冷ややかで気品ある変態であることに起因しているのかもしれないが。

ここまで悲惨な目に遭っていながら、もっと悲惨なことにはっきり言ってムカデ人間自体は、ほぼ出オチ扱いである。
ただ、唯一喋ることができる先頭のカツローと博士との言語/思考のディスコミュニケーションは、限りなくブラックなコメディパートとして、博士とムカデの(不)愉快な日常ストーリーを牽引してくれる。北村昭博さんが監督にアイディアを出してくれたおかげで、海外映画の中で日本人が聞いていて違和感ゼロで生きた日本語になっているし、「火事場のクソ力じゃあぁぁぁ!!!」「あっ……う、ウ○コ……」と日本人のほうがニュアンスを笑えそうなセリフも多々あり。

そうそう、一応古典ホラー的な教訓めいたところもある。「知らない場所で近道をしてはいけない」とか「タイヤ交換は覚えておくべし」とか「基本的に野グ○はいかんよ」とか。
しかしそうは言っても、この場合リンジーとジェニーが取るべき最良手段は、「あの車越しに絡んできたエロ親父を殴り倒して車を強奪する」だったんじゃないかと思ってしまうんだけどね。

そして何より、本作の中心にいるハイター博士。『武器人間』のフランケンシュタイン博士や、『死霊のしたたり』のハーバート・ウェストらホラー映画界のマッドサイエンティストの仲間入りを果たしたわけだが、ハイター博士はその中でもトップクラスに可愛いのである!! (※個人の価値観に基づく)

最初に作ったムカデ犬の在りし日の写真を見ながら涙ぐむ姿の登場シーンに始まり、絶妙にざっくりしたイラストで犠牲者の皆さんに「ムカデ人間手術プロセス」を得意気にプレゼンする姿、ムカデ人間が思うように動いてくれなくてヒステリー起こす姿、脚にプロテクター付けて「噛みついてみろ!」と挑発する大人げない姿、訪ねてきた刑事に対して挙動不審すぎて色々ごまかしきれてない姿に、いちいち愛嬌があって憎めない。
いかにも緻密な計画を持っていそうなのに、ムカデ素材の捕獲作業や、ムカデ人間の栄養補給、刑事のあしらい方はなぜか穴だらけというツッコミどころすら、「ちょっと(いやかなり)抜けてるところが可愛い」に転じてしまう。

なぜそう思ってしまうのかと考えると、やはりディーター・ラーザー自身のチャームが原因なのだろうか。また、ユーモアのさじ加減が快・不快ギリギリのバランスを保っているからかもしれない(ギリギリどころかアウトだという人も多いだろうが)。
後にチェックしてみたところ、当時御年70歳。ロバート・イングランドやランス・ヘンリクセンに近い齢で、一見彼らより遥かにギスギスした風貌ながら、彼らに勝るとも劣らぬ可愛らしさを放出するとは……知性とユーモアの力は絶大だなぁ。

中でもハイライトは、とうとう念願のムカデ人間完成時。写真を撮りまくり、鏡を差し出して絶対に見たくないであろう己の変わり果てた姿を見せつけ、絶望のあまり泣き出す3人をよそに一人鏡にキスして歓喜の涙を流している。ムカデ人間の絶望を忘れて、「うんうん、良かったね! 良かったね博士!」と力いっぱい博士に肩入れしてしまう。
思えば、世界を変える級の野望があるわけでもなく、人間嫌いゆえに共犯者がいるわけでもない孤軍奮闘生活の成果がようやく出たんだもの、そりゃ泣いちゃうよな。

まぁ、博士に肩入れする決定的なきっかけになったのは、一人脱走したリンジーに「マトモじゃないわ、変態よ!」と言われて「ああ私は変態だ!!」と堂々断言した瞬間なのだが。こういう正々堂々とした態度は見習いたいものですね………………いやきっと勘違いでしょうけどね。

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