2016年10月11日火曜日

デビルズ・メタル

鋼鉄の絆! 鋼鉄の音楽! 鋼鉄のバカ!!

デビルズ・メタル('15)
監督:ジェイソン・リー・ホーデン
出演:ミロ・コーソーン、ジェームズ・ブレイク



「メタル好きだから」「ホラー好きだから」と直接の偏見をくらったことはない。……が、意を決してマリリン・マンソンTを高校(制服はあるけど着用義務はないので自分は私服でした)に着ていったものの、特に誰にも何も指摘されなかったのもそれはそれで寂しいもんだよ。めんどくさい悩みだけど。

母親が逮捕されたので親類の家に引き取られたメタル好きの高校生ブロディ。叔父夫婦はクリスチャン、同じ学校に通うイトコのデヴィッドはジョックスでいじめっ子、数少ない友人はロールプレイングゲーム好きのオタクたちと、家でも学校でもカースト最下位の生活だった。そんな彼の救いは、メタルを聴くこと、メタル仲間の不良ザックと友人になって結成したバンド「デスガズム」、デヴィッドの彼女ではあるが自分に好意的な学校いちの美女メディナ。
ある日、ブロディとザックは、数年前行方をくらませたギタリストの隠れ家で古びた謎の楽譜を手に入れる。これをデスガズムの曲として発表しちゃおうぜ! といつものようにガレージで演奏を始めるが、実はそれは悪魔を召還し世界に破滅をもたらす「黒い賛美歌」だった……。

『ホビット』シリーズや『アベンジャーズ』のヴィジュアルエフェクト担当が監督……という背景からは到底結びつかないような、黒い血ドボドボゲロゲロスプラッター。
何せ「黒い賛美歌」により悪魔に取り憑かれた人々(ほぼゾンビ?)が、身体のあらゆる穴から血を流したり豪快な血ゲロを噴出したりしている。
それに対して銃なんてスマートな武器は流通していないので、スライサーやら斧やらチェーンソーやらえげつなさ全開の凶器でメッタ斬り殺す。絵面はおおむねキタナい(注:褒めてます)が、ゴアゴア祭りの豪快さは気合十分だ。

良識から見ればケシカランもの同士ヘヴィメタルとスプラッターの相性は抜群だが、そこに謎の爽快感すら生み出してしまったもう1つの要素が、鋼鉄級のバカスピリット
森の中でデスガズムのミュージックビデオを撮影し(そして途中でやってられなくなる)、コープスペイントのまま意中の彼女と出くわしてしまう日常はもとより、悪魔憑依で街中が血みどろになってからも(メタル)バカはバカ。
即席の武器としてギターネックに有刺鉄線や丸ノコを装備し、チェーンソーでケツをぶった切りながら「メタルをくらえ!!」の雄叫びを上げる。この時点で「ヤベェなんか楽しそう」と思えてきたアナタはもう(気持ちだけは)デスガズムのメンバーです。

なお、街には「黒い賛美歌」の楽譜を狙う悪魔崇拝者たちもやってくるのだが、彼らもうっかり高級カーペットの上で首チョンパしてしまう程度にはおバカさんなので、案外メタルバカといい勝負である。

しかしまぁ、いくら銃の代わりにえげつない武器を持たねばならないとはいえ……まさかラバー製デカ○○○とか、×××ビーズとか、バイブレータ(もちろんそっちの意味でだ!)でゾンビもどきをシバけるとは。アダルトグッズも結構有効な凶器なんですね。

ところで、本作の監督および脚本のジェイソン・リー・ホーデン、割と本気のメタル系ボンクラだったんじゃないか。エンペラーイーサーンAxCx(これはジャケットのみの登場だけど)といった音楽のチョイス、カンニバル・コープスのボーカルに関するちょっとした考察といったバンド話はもとより、ブロディ君の置かれた状況や心境からの推定である。

実はメタルヘッズにザックのようなガタイのいい不良はそう多くはなく、大半はブロディ君のように大人しめ。
たとえ現状にムカついていてもめったに口には出せず、やられてもやり返せる度胸と腕力に欠けている。ドン底を見たあまりに、いっそ自分を取り囲むすべての崩壊を願ってしまうことだってある。
もっとも、それが実現してしまったら自分だけの力ではどうにも収拾つけられないボンクラなので、願い事には気をつけなくちゃならない。世界滅亡級というスケールには及ばなくとも、いちいち深い共感とあまりつつかれたくないイタさを呼び起こす描写に、監督がこちら側の人間に思えて仕方なくなる。

そこまではリアルだが、気になっていた女の子が自分に好意を持ってくれて、しかもメタルのCDを貸したら案外ハマってくれたくだりはさすがに願望の領域といえる。
CD貸した相手がそのアーティストにハマるなんてことも少なくとも私の場合なかなか無かったのに、メタルを聴いた瞬間の自己妄想(我、従僕を侍らせ世界の頂点に君臨す!!)までほぼ一致するなんて……やっぱりズルいんじゃないかブロディ君よ!!

ちなみに、本作はエンドクレジットの途中で席を立ったり停止ボタンを押してはいけない類。映画観てると常々思うんだけどさ、地獄って実は楽しいとこなんじゃないの!?