2013年9月8日日曜日

ABC・オブ・デス

人生いろいろ、死に様いろいろ……

ABC・オブ・デス('13)
監督:ナチョ・ビガロンド、アドリアン・ガルシア・ボグリアーノ他
出演:



いくら死に様いろいろっていっても、ここに出てくる死に様は願わくば極力避けたいもので。
5分間でインパクトもつけなきゃならんから凄まじくなったんだろうけど。

「死」をテーマに作られた、アルファベット1文字5分間26編のオムニバス映画。監督勢は、マイナーだったりDVDスルーだったりするものの、ある種の映画オタクには「おぉ!」と感心されるラインナップ。もちろん、そんな中でも好き嫌いは出てくるけど(何しろ死に関係してもしなくても、やたらウ○コとかゲ○とかのネタが多いので)、すべての話が5分以内に完結するのでそんなにダレる心配はない……と思う。
さて、どれがお好みの死でしょうか?(という不謹慎な楽しみ方もできます)
ちなみに、以下タイトルは極私的お気に入り、タイトルは極私的まずまず面白い一編です。

A=Apocalypse(アポカリプス)

なぜ妻は突然、ベッドで寝たきりの夫をメッタ刺しにして熱々のフライパンでぶん殴ったのか? 適度なショックシーンと外の世界を一切見せずに描く「終わり」が、トップバッターとして秀逸。

B=Bigfoot(ビッグフット)

子どもをビビらせて寝かしつけるために作ったデタラメの恐怖譚が現実に……という、他の国はどうか知らないが、日本人にはわりとなじみのある話。雪の降らないアルゼンチンに、ビッグフット(雪男的なモノ)はどうやって現れるのか。

C=Cycle(サイクル)

これまた短編小説あたりでなじみの深いループもの。

D=Dogfight(ドッグファイト)

地下の非合法賭博で行われた人間ボクサー対闘犬のデスマッチ。そして死ぬのは……? スローモーションが効いていて、最後に軽ーくヒネリもあって、5分間でお腹いっぱいになれます。

E=Exterminate(駆除)

クモを殺したと思ったら……これもまた都市伝説的なお話で聞いたことある展開。とりあえず、クモ嫌いだったらゾッとするだろう。

F=Fart(おなら)

日本代表井口昇監督作。原発事故のことが頭に残りながらも『ゾンビアス』を撮っていたという自身の経験を昇華したら、なぜか美少女がおならという、死よりもフェティシズム溢れる一編になっていた。この企画がもし「ABC・オブ・ド変態」だったら、まず間違いなくコレがMVP候補ですよ。

G=Gravity(重力)

サーファーの死をPOVで……しかしシンプルイズベストとはいえず。上映してた武蔵野館でも、観客投票ワーストに選出されてしまいましたね。

 

H=Hydro-Electric Defusion(水電拡散)

アメリカ軍のパイロット(犬)vsストリッパーに化けたナチスの女兵士(猫)in着ぐるみアニメ。でもせっかくホラーオタク枠の作品でショック描写もあるんだから、そこは人間でやってくれても。

 

I=Ingrown(内向)

これ、映画の最後のエンドロールに出てくるメキシコの内情に触れた1文を、この短編の最後に持って来ればもっと余韻がちがってたんじゃないだろうか。もったいない。

 

J=Jidai-Geki(時代劇)

日本代表山口雄大監督作。切腹した侍の苦悶の顔が必要以上にゆがみまくるので、なかなか首を落とせない介錯人。不謹慎だけど、なぜか時としてつながってしまう死と笑いが皮肉。侍のゆがんだ顔が、実に気持ち悪くて面白い。

K=Klutz(不器用)

ブラックなアニメ作品。直接の死因じゃないにしても、元凶がウ○コってのはやっぱりヤですね。

L=Libido(性欲)

ある意味ソリッド・シチュエーション・スリラー:どっちが先に自慰で射精できるかデスマッチ(負けたらケツから串刺し)。深い説明は一切なく、トーナメントが進むごとに自慰のネタも変態度が上がっていくという、清々しいほど不条理の極み。

 

M=Miscarriage(流産)

話の短さといい、こういうことは実際に起きてそうで、ちょっと後味が悪い。

N=Nuptials(結婚)

彼女の前でオウムにプロポーズの言葉を喋らせるというシャレた演出のつもりが……嫉妬に狂った人間の衝動ってコワい。

O=Orgasm(オーガズム)

いわゆるイメージ映像というやつ……

 

P=Pressure(重圧)

娘へのプレゼントのため、売春婦がしなければならなくなった仕事とは……。『レクイエム・フォー・ドリーム』に次ぐくらいのダウナーになる話なので注意。

Q=Quack(アヒル)

『ABC・オブ・デス』に参加したはいいが、「Q」にまつわる題材なんか思い浮かばない! じゃあ「Q」にまつわる動物でもホントに殺すとするか! というメタネタ。ちょっとズルい気もするが、オチが良い意味でバカらしかったので良しとしたい。

 

R=Removed(切除)

焼けただれた皮膚をさらに切除される患者。皮膚を洗浄するとなぜか出てくるフィルム。マスコミに取り囲まれて有名人扱いの患者。とうとう彼は医者たちを殺して逃亡する。ひょっとして、「フィルムの表面だけ見て面白半分に近寄ったり搾取したりやがって! オレの底力はそんなもんじゃないんじゃあ!!」という監督自身ですか?

S=Speed(スピード)

大男に火炎放射を浴びせて逃げ、砂漠を疾走する美女。火炎放射器に砂漠というと『マッドマックス2』を連想するけど、オチで「ああ、そっちの話ですか!」とすべての実態が分かる。

T=Toilet(トイレ)

唯一の一般公募作品。トイレにまつわる怪談話系かと思いきや、もっと無惨で悲惨で最悪な現実の怖さ。グロテスクなクレイアニメが効いてます。

U=Unearthed(発掘)

発見されたモンスターが逃げ回り、人々の手で殺されるまでを、モンスター視点のPOVで。POVとして一番面白いのは最後の最後のショットですが。

V=Vagitus(産声)

出産が規制された未来にて、不法出産を取り締まる女性エージェントが遭遇した一家と、事の顛末。まさかここにきてSFものとは予想外。ちょっと『LOOPER』っぽくもあったけど。

W=WTF!?(What The Fuck!?)(カオス)

『ABC・オブ・デス』に参加したはいいが、「W」にまつわる題材がどれもピンとこない! そしたら題材に考えてたネタがまとめてオレたちに降りかかってきてもうぐっちゃぐちゃ!! というメタネタ。正直ぐっちゃぐちゃが過ぎてノリにくくなってしまったのだが、『ABC』のネタに悩むオレたちというメタ構造が「Q」と被っちゃったことこそ一番の「WTF!?」です。

 

X=XXL(ダブルエックスエル)

近年エグいホラーを量産しているフランスから、またエグい作品が。そこらですれ違った赤の他人に肥満をバカにされ続ける女性が最後に取った手段……それは世界一痛くて血みどろな劇的ビフォーアフターだった! しかし、血みどろの果てに一瞬のユーモアと皮肉を添えるあたり、監督の趣味の悪さと趣味の良さが両方にじみ出ている。

 

Y=Youngbuck(ティーンエイジャー)

小児性愛者の用務員オヤジはいかにして成敗されたか。とりあえず、あの変態全開な面構えのおっさんをよくぞ見つけてきた!! その点だけで評価がムダにガン上がりしてる!!

Z=Zetsumetsu(絶滅)

日本代表西村喜廣監督作。親米外交や原発事故や戦争への怒りをごった煮にしたら、半裸女性の血みどろレスリングの果てに、日本の○○○から飛んだ野菜とアメリカの×××でカレーができて、人間ミサイルで世界が滅びるという「W」よりもカオティックでアブナイ世界に。字面を見ても何のこっちゃだが、映像を見ても何のこっちゃと言われる可能性もある。そしてすべてを持っていくのが、村杉蝉ノ介さんのピーター・セラーズパロディ。これって『博士の異常な愛情』の最低変態版だったのか。「天皇陛下! It's Standing!!」


冒険がすぎるきらいもあるが、誰がどんなネタを持ってきてどう料理するかで楽しめる死のABC。すでに企画第2弾の制作が決まり、「M」を題材に一般募集枠も始まり、日本からは園子温(『冷たい熱帯魚』)と大畑創(『へんげ』)の参加が決定! ホラーと死とクリエイターの秀逸な発想がある限り、いろいろと観てみたいオムニバスだ。
なお、新進気鋭だけじゃなくて、そのうちベテラン監督も参加してくれても面白いんじゃないだろうか。例えば三池崇史とか……(それはやめたほうがいい?)

2013年9月4日水曜日

パシフィック・リム

環太平洋イェーガー愚連隊。

パシフィック・リム('13)
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:チャーリー・ハナム、菊池凜子



2012年末、この映画のティーザー・トレーラーを観たときには、そのビジュアルに「おおお!!??」となった。
2013年に入って正式な予告編が公開されると、さらに期待値は上がり「うおぉぉぉぉ!!!!」となった。
そして8月9日、ついに映画が公開されるとこうなった。
「エルボーロケットォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」

太平洋海底の裂け目から出現した怪獣(KAIJU)vs環太平洋各国が開発した巨大ロボ・イェーガー!! ……というのが映画の主軸にして、最大重要事項である。
戦いに赴く人間たちのドラマも、親子関係やら失った仲間やら実は結構あるが、必要最小限に抑えられている。人間同士のつながりが一番活きるのは、2人のパイロットの脳をシンクロさせてイェーガーを操縦する「ドリフト」だ。
特撮怪獣映画やロボットファン必見! というような書かれ方もしているが、自分のようにゴジラもロボットものも申し訳程度にしか見たことない人でも、いちいち心が熱くなるショットが満載。冒頭だけでも、アックスヘッドのゴールデンゲートブリッジ襲撃、ジプシー・デンジャー起動、漁船の前にナイフヘッドが現れ、船長が「KAIJUだ……!」とつぶやくなど、1つ1つのシーンに心臓をつかまれっぱなし。海からの怪獣出現シーンが、音楽といい怪獣の咆哮といいどう見てもゴジラっぽいのも熱いところ。監督にその意図があったかどうかは分からないが、悪名高きエメリッヒ版ゴジラ(別名:ゴジラじゃないゴジラ)に近い展開やショットもあり、エメゴジはそんなに好きでもないのになぜか嬉しくなる。
各イェーガーのデザインが無骨で重々しいのもポイント高い。『アイアン・スカイ』といい、金属むき出しでやたら重厚でガシャンガキンゴゴゴゴと動くマシーンの類は、どうしてオタクスピリットに火をつけるんでしょうね。もちろんそれだけじゃなく、ヒーローロボのジプシー・デンジャーはスマートさと丸っこさを程よく、ライバルロボのストライカー・エウレカはシャープにと個性もある。
ここまで観客を熱くするのは、ひとえにデル・トロ監督の「こんな絵が観たかったんだ!! これがやりたかったんだ!!!」という、海底の裂け目よりも深い怪獣映画愛が背後にあるからにちがいない。

イェーガーはミサイルやプラズマ砲などの兵器を搭載しているが、基本戦闘は殴ったり投げたり羽交い絞めにしたりというプロレススタイル。そういえば、初期ウルトラマンも、スペシウム光線以外は怪獣とは基本殴り合い勝負だったような。
思いっきり冷めた観点からみれば「なんでわざわざタイマンで行くんだよ」とツッコミたくもなるのかもしれないが、それに対しては「その方がアツいから!!!」としか答えられない。イェーガーのデザインと同じく、怪獣の顔面に全力パンチ(エルボーロケット!!)かますとか、取っ組み合いながら至近距離でプラズマ撃つとか、無骨なバトルほど燃えてくるのだ。
香港でのジプシー・デンジャーvsオオタチ&レザーバック戦に至っては、ジプシーの戦闘スタイルがまるで昔の映画のヤンキー。レザーバックの顔面を殴る両手のコンテナはカイザーナックル、オオタチをぶん殴るタンカーはバット(釘が打ちつけてありそう)、とどめの新兵器チェーンソードはバタフライナイフ……と当てはめられ、ちょっと『岸和田少年愚連隊』を観ている気にすらなってしまう。
欲をいえば、この直前の戦いでもっとクリムゾン・タイフーンとチェルノ・アルファの活躍を見たかったものだ。せっかく面白い必殺技持ってるんだから。

人間ドラマは最小限に抑えられているとはいえ、主だった人間たちのキャラクターは非常に濃くて面白い。これもデル・トロ監督が愛情をぎゅうぎゅうに詰めたおかげかなぁと。リミッターを外せば全キャラクターについて語れそうなところだが、長すぎるのも難だしネタバレにもつながるのでさすがに割愛。
日本人としては、森マコこと菊池凜子の活躍がどうしても嬉しいもので。ステレオタイプすぎずアニメ系すぎず、ヘタに主人公・ローリーとの恋愛が絡まず、当然変に浮きもせず、安心して見られるカッコいい日本人。日本語パートになまりがあるのはどうしてかという疑問もあるけど。
ペントコストはセリフが一番大仰なのだが、ロボットものアニメに出てくる厳しくも優しい司令官を実写に起こしたようで、何を聞いてもカッコよく思えてしまう。「世界が滅びるとき、お前はどこにいる? ここか、イェーガーの中か?」は、ぜひ2013年映画を代表する名言にしたい。
管制官は、名前がテンドー・チョイだし演者がクリフトン・コリンズ・Jr.だし国籍不詳にもほどがあるが、指令センターであくせくしてる蝶ネクタイしめた博士キャラというのは、なぜか不思議と懐かしさがある。そんなイメージに親しんだ覚えもないはずだというのに。
そして、デル・トロ映画といえばロン・パールマン。あんな下品な金歯と金の靴が似合う人はそうそういない。怪獣危機の世界であんなにうまいこと悠々サバイバルしていけるあたり、さすがヘルボーイです。

そんな面子の中、意外にもインパクトトップクラスとなったのが、怪獣の出現頻度と生態を研究するニュートとゴットリーブの学者2人。論理派と情熱派/潔癖とグチャドロ(怪獣の内臓ほっぽらかし)という絵に描いたような凸凹コンビ→いちいち対立→でも最後は力を合わせるというベタベタなキャラ方向が、オタク監督に愛情持って作られたせいか妙に斬新に見えてしまう。ニュートの「メガネメガネ」(まさか海外作で見られるとは……)や、映画史上最適ポジションにある便器など、お笑いパートも担っているのだが、これまたうるさかったりウザったかったりしすぎず、良い感じのスパイス。個人的には、ゴットリーブが握手返し下手な理由が、直後のとあるショットから推測できるという見せ方が好きだ。
ちなみに、重度の怪獣オタクという設定のニュート、見た目はJ.J.エイブラハムス似でもどう考えてもデル・トロ監督自身ですよね? 

久しく日本で作られていない「怪獣映画」というジャンルが、まさかのメキシコ発の日本映画ラブレターとして帰ってきた本作。監督の熱いスピリットを受け止めるためにも、DVDより劇場で、2Dより3Dで、3DよりIMAXで、さらに願わくば4DXで、とにかくでっかいスケールで体感するべき映画だろう。