2013年7月19日金曜日

飛びだす 悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲

殺人鬼はつらいよ ~フーテンのレザーフェイス~

飛びだす 悪魔のいけにえ/レザーフェイス一家の逆襲('13)
監督:ジョン・ラッセンホップ
出演:アレクサンドラ・ダダリオ、ダン・イェーガー



「私 生まれも育ちもテキサス、ニュート。チェーンソーにて洗礼を受け、
姓はソーヤー、名はジェデダイア、
人呼んで、レザーフェイスと発します」
(このために、まだ観たことない『男はつらいよ』の記事を調べた労力と、その後の脱力感をどうか薄ら悟ってください)

悪魔のいけにえ』のラスト直後。惨劇から生き残った女の子の通報により、ソーヤー一家は保安官と町の自警団に包囲された。自警団は勝手に実力行使に踏み切り、一家が立てこもる家に火を放ち、ソーヤー一家は全員死亡。唯一赤子だけが、自警団員の夫婦に密かに連れ去られていた。
時は流れ、その赤子・ヘザーは18歳になっていた。そこへ、存在すら知らなかった実の祖母の訃報と、彼女が祖母の遺産相続人であることを記した書類が届く。自身が養子であることを知ったヘザーは、本当の家族のことを知るためにもと、友人たちとテキサスへ向かった。祖母の家は豪華大邸宅で、ヘザーも友人たちもつい舞い上がる。しかしその家には、一家虐殺を逃れ、祖母にかくまわれていたレザーフェイスが潜んでいた……。

あれ? オリジナル(1974)からの続きだったら、あのとき赤ちゃんだった子はもう40代ぐらいになってるんじゃね? 
レザーフェイスとドレイトンは親子じゃなくて兄弟だったはずじゃね? 
ついでに、『悪魔のいけにえ2』を考慮するなら、レザーフェイスはみんなから「ババ」って呼ばれてたんじゃね?(本作ではジェドと呼ばれている)

……と、正統続編とはいってもいろいろ設定矛盾が生じる本作。まぁ、『2』は別物続編としても、レザーフェイスの名前ちがいは、彼を「ババちゃん」と呼んできた自分にとってちょっと寂しい。「ジェデダイア」って、立派なお名前ですけど。
もっとも、そのへんの矛盾はサクッと無視するのが監督の意図らしいので、いくらこっちがモヤモヤするといっても仕方ない……のかなぁ?

ただ、そのモヤモヤを解消してくれるぐらいのオリジナル愛とリスペクトはある。とりわけ、ガンナー・ハンセン、マリリン・バーンズらオリジナル出演者の登場が嬉しい。
オリジナルのときはまだ若かったから特殊メイクでグランパやってたジョン・デュガンなんか、ようやく年相応になってほぼ素顔でグランパを再演してるもんなぁ。
ドレイトン役のジム・シードウは残念ながら他界しているが、その後継者がチョップトップことビル・モーズリィってのもニクい。

ハンマースマッシュやらフック吊りやら冷蔵庫やら、オリジナルをなぞったアイテムや描写があるのは分かるが、オリジナルを意識したショットもあるのも嬉しい。特に、ムダ脱ぎ担当ニッキーのホットパンツを下からのぞき見るようなショットは、明らかにテリー・マクミン意識で印象的。あと、実は直接チェーンソーで切られて死んだ奴は1人しかいないあたりも、オリジナル意識なんだろうか……?(その唯一のチェーンソー死を遂げたキャラは、フック吊りもされているので非常に悲惨な死にざまなのだが、映画的には一番おいしい)

しかし、引き戸だけは……何度か登場したものの、「ゴン! ゴン! ピシャッ!!」の映画史上最強の引き戸には及ばない。あの引き戸だけはもはや越えられない伝説なのだろう。ただ、エンドクレジット直前の引き戸には、今までにない哀愁を感じたから良かったよ。

年齢の進行が時空を超えたヒロインに対し、こちらは時間軸に忠実に初老の域に達しているレザーフェイス。もともと丸みのあった身体のフォルムはさらに丸っこくなり、獲物を追って走るときにもちょっと足元が危うくなり、ハンマースマッシュも2撃ぐらいじゃ仕留めきれなくなっている。お歳柄、チェーンソーをぶん回すのも本当はキツそう。
それでも、まさかのチェーンソーぶん投げアタックができちゃうあたりはさすが職人。ファッションセンスも、ワインレッドを着こなすなど、若いころより攻めになりましたね。

さすがに、昔のように何かとオタオタオドオドはしなくなったものの、初老レザーフェイスの背中には常に哀愁が漂っている。厳しくも温かかった家族を突然奪われ、同時にガソリンスタンド&バーベキュー(原材料:そこらへん通った人)の家業も立ち消え、密かに面倒を見てくれた祖母も他界。無職で孤独で、今後の人生を思うと……という境遇は、歴代レザーフェイスの中でもトップクラスに切ない。
しかし、結末は逆に、歴代レザーフェイスの中でもトップクラスに幸せといえるんじゃないだろうか。一応コレも、日本人大好き「家族の絆の感動モノ」に分類できると思いますけど。

3Dでスプラッターものということで、本作もある程度は期待通りにチェーンソーが迫ってくる。飛んでもくる。血しぶきや肉片もていねいに散る。難なのは、『ピラニア3D』のような飛びだすエロが少ないことか。
しかし後半になると、飛びだすことは二の次で、サブタイトルの通り「レザーフェイス一家の逆襲」が、怨念と哀しみと、ヘタすると感動を伴ってくり広げられる。感動しちゃったら最後、もうレザーフェイスに肩入れすることこの上なし。
サブタイトル、邦題の悪ふざけだと思っててすみませんでした。

というかね、私がこの映画観て「うわぁ、テキサス行きたくねぇなぁ……」と思う理由って、レザーフェイス(とその一家)じゃないんですよ。
「『目には目を』って聖書でもいってるじゃん」って、ズレズレの正義感と都合のいい倫理観を振りかざすテキサス野郎こそ、一番リアルで怖くてヤな存在じゃないですか。その最骨頂こそ、アフガン人がテロやったからイラクで戦争するぞ! ってムチャクチャやったあの大統領じゃないですか……。

なお、日本の配給がたまにやらかす日本オリジナルエンディング曲ってありますよね。多くの映画好きの例にもれず、私もこの手法は好かないクチなのですが、コチラに限っては日本オリジナルエンディングとして流れても怒りませんよ。いや、ホントに。

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