2015年10月5日月曜日

ムカデ人間3

監獄ムカデでみんな(ムカデダンスを)踊ろうぜ。

ムカデ人間3('14)
監督:トム・シックス
出演:ディーター・ラーザー、ローレンス・ハーヴェイ

 

1の静かなる変態ワールドが気に入った人の中には、2の嫌悪とグロの極致を受け付けない人もいただろう。逆に1を物足りなく思えた人は、2のダイレクトな残酷描写が気に入っただろう。
だが、1と2どちらも好き、あるいはどちらかは好きというムカデファンでも、本作には辟易してしまうかもしれない。このシリーズは、前作でファンになったであろう観客をいとも簡単に切り捨てる。まったく仕方のない奴だよ、トム・シックスは! どうしてくれるんだよ。映画館でこんなに腹筋に響いて喉の奥がゴボゴボいうほど笑えたのはたぶん初めてだよ!! 
ああ、結局3作目にして最もハマったよ!! 監督の術中に!!

アメリカ、ジョージ・ブッシュ刑務所。所長のビル・ボスは悩みの種とストレスを抱えて今日もブチ切れていた。この刑務所は暴動発生率、職員の離職率、出所者の再犯率、さらにボスによる囚人虐待のせいで医療費も全米一。このままでは州知事にクビを言い渡されてしまう。
ヒステリーが激しくなるボスに、会計士のドワイト・バトラーが提案した。『ムカデ人間』と『ムカデ人間2』を参考に、「受刑者総ムカデ人間化計画」を立ち上げるのだ! これなら暴動も起きず、職員もケガせず、食費もカットできる、最高の懲罰になる。さらにドワイトはトム・シックス監督を呼び、「ムカデ人間は医学的に100%正しい」との意見を得る。ただでさえアタマのタガが外れっぱなしなのに切羽詰まっているボスは、遂に囚人500人をつなげる一大手術にゴーサインを出した……!!

主役俳優コンビに、カツローこと北村昭博、セブリング先生ことビル・ハッチェンス、何気にシリーズ皆勤賞のピーター・ブランケンシュタイン、さらには監督まで本人役で出演。オールスタームカデ祭りだ!! ……と思いきや、見せ場の大半はディーター・ラーザーの過剰なブチ切れ独壇場という予想外の展開。しかもコレ、1のようにマジメにやってるがゆえに笑えるのではなく、完全に笑いを狙いにいったコメディになっている。ボスという名の所長にバトラーという名の執事役って、ヴィランという名の悪役(エクスペンダブルズ2)以来のギャグネーミングだなぁ。
当初より出オチ感の高かったムカデ人間も、今回は500人つなぐという規模のこともあって、シリーズNo.1の出オチ扱い。観た瞬間「本当に本気でやりやがった……」とは思うが、国内・海外問わずポスターでビジュアルを公開してしまっているから、衝撃度は控えめだろう。その代わりといっては何だが、1同様結合部はバンドで隠されているものの、手術で口とケツが結び付けられる決定的瞬間はしっかり収められているのだ! それを観て何%の人が喜ぶのかは置いといて。
まぁ、ある意味もっとヒドいのは、ボスがさらなる懲罰として作った××××人間。手術が大がかりかつ残酷な割に、ほとんど引きの画でしか映してもらえないうえ、本当のところ俳優さんたちがどういう姿勢でいるのか観客にバレバレなんだもの。それでさっさと次行っちゃうんだもの。これぞ出オチの極みにして(役者的に)懲罰の極み。
ちなみに、この一部始終を観ていた本人役のトム・シックス監督、ボスの横暴ぶりに「これはマズいよ!」とコメントし、盛大にゲ○まで吐いていたが……お前がすべての主犯格のクセして何常人ぶってるんだよ(笑)!!! 

1の冷ややかな色彩の世界=ハイター博士、2の暗く湿っぽいモノクロ世界=マーティン、とくれば、本作の喧騒と暴力にまみれた灼熱の世界はビル・ボスだ! 1作目ではクールな知的変態だったディーター・ラーザーが、キレる、吼える、虐待する、セクハラする、そしてまたキレるという、暑苦しくやかましいバカ暴君に嬉々として変貌を遂げている。
ハイター博士やマーティンもなかなかにアタマのネジがぶっ飛んだ方々だが、2人もビル・ボスにはドン引きしそう。父親の釈放をネタに秘書のデイジー(ポルノ女優ブリー・オルソン。彼女の幻の場外武勇伝については北村昭博氏のコラムやインタビューを読んでいただきたい)を性欲処理に利用し、精力剤としてアフリカ産干しクリトリスを食し、キレてはその辺で銃を乱射する。逆らう囚人たちに対しては、腕を折るわ、熱湯攻めにするわ、麻酔なし去勢手術を施すわで、挙句取ったタマをフライにして食ってしまう。しかし彼の実態は、囚人からの報復を悪夢に見るほど恐れている、声のデカい小心者なのである。
もはやハイター博士に輪をかけて可愛げも同情の余地もない男のはずなのだが……それでも不思議とディーターは可愛らしくて仕方ない!!!! 過剰演技で見せる暴走劇もさることながら、机の下に隠れたり、ショットガンをお守りのように抱きしめたり、我先に逃げたりする小心者ぶりまで可愛い。完成したムカデ人間を前に踊りながら歩き出す姿も可愛い。最低の人間を魅力的に映すためには、演者自身の多大なる魅力がキモ……とは重ね重ね言っているが、ディーターのチャームは思いのほか強大だった。
しかも、今度のディーターは笑いの暴走列車である。ニタニタ顔やらふくれっ面やら絶頂顔やらの顔芸、ブチ切れ芸、ヤバい事態から逃げようとするリアクション芸まで、運悪くドツボにハマってしまった人間には「もう勘弁してくれ!!」と言いたくなるほどお笑いトラップのたたみかけである。まさに「絶対に笑ってはいけないジョージ・ブッシュ刑務所」。自分は何回ケツバットを喰らうことになるのやら。そういえば、「オレのリーダーシップは原子爆弾だ! 100メガトン級だ!」とわめくボスの背後で、ブリー・オルソンが不自然な前傾体勢になってましたが、アレたぶん本気で笑っちゃってましたよね……?

その点、ドワイトは冷静なほうだし、礼儀正しいし、デイジーに乱暴な扱いをしないし、ボスに歯止めをかけようとしてるし、まだマトモだよな。デイジーもドワイトの近くにいたほうがマシなんじゃないかな……って、見事にダマされてましたよ!! 
ボスが戯画化された暴君なら、ドワイトは妙にリアリティのあるサイコである。声高にヤバいことをわめく暴力装置であからさまに危険人物のボスに対し、ドワイトは接しやすくノーマルな会話が可能。ボスの暴走に対するツッコミ役でもある。ついでにいえば、物言わずとも全身から孤独と狂気を発していたマーティンに対し、今回のローレンスはお喋りで愛嬌たっぷりの姿を見せてくれる。だから、うっかりするとボスの異常性を測るための基準として置かれた「普通の人」に映ってしまう。
しかし、そもそも非人道の極みたる受刑者ムカデ化計画の発案者はドワイトである。「あんなくだらんB級映画を!」と取り合いもしなかったボスを、監督呼び寄せてまで説得したのもドワイト。デイジーにだって密かに好意を寄せているのに、彼女がダッチワイフ以下の扱いを受けていてもボスを止めようとはしていない。囚人虐待にストップをかけるのだって、理由は「また医療費がかさむから」である。ドワイトは確かにボスを恐れているが、崇拝してもいるので、基本的にボスのやることなすことを否定してくれないのだ。
明らかな狂人の影にいて、一見普通の人の態度をとっているが、その実一般的な倫理観が抜け落ちている。幼児性とそれゆえの残酷さを持つマーティンと対比してみると、また興味深い。

(以下、核心に触れる部分は反転させています)

三部作中最も笑いの要素が強い作品ではあるが、救いのなさも前2作に劣らない。搾取される側の人間は最後まで搾取され続け、救いの手も差し伸べられない。国歌響き渡り星条旗がはためく下では、全裸の狂人が勝利の雄叫びを上げ続けるのだ。
これがアメリカだ。これが世界の不条理だ。ありがとうトム・シックス。
ありがとうムカデ!!!

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